第60話 行くんかい
両手を背後で縛られ、貴族の屋敷ーー聞いたかんじパールトンという貴族の屋敷の廊下をしてあるく。
さっきから中年男ーーおそらくローレシアの騎士団の者と思われるーーと、裏切り者のゴルゴンドーラが喋っているが、なにやら意見が食い違っている。
どうにもこれから戦場へおもむくらしいが、ゴルゴンドーラが行きたがっていないのだ。
やはり、この男は腰抜けらしい。
「はぁ……わかりましたよ。俺も同行します」
「そうしてくれるとありがたい。ゴルゴンドーラ殿、貴殿の力があればいざと言う時になんとかなるからな」
いや、行くんかい。
「なんだ、帝国を追い出されたゴルゴンドーラ。おまえも戦場へ行くのか」
「あぁ……機会にさらされると衝動がでるから、あまり行きたくないんだけどな。
責任はある。そして責任は清算されなければならない。それに、不意の事故か何かで、バルマスト帝に死なれては困るんで」
「ふん、やはり戦場が恐いだけじゃないか……親父はおまえのことを気に入ってたようだが、その訳がわかったよ」
生涯戦争をしなかった腰抜けの皇帝。
似た者同士だから、こいつは宮廷魔術師になれたんだな。
「あぁ、俺って気に入られてたんですか。そうですか、そうですか。ん、着きましたね」
ゴルゴンドーラは露骨に適当な相槌をしながら、とある扉のまえで立ち止まった。
「あぁ、そうだ。目隠しとかしとくんだった」
「目隠し……だと?」
ふとそう呟き、ゴルゴンドーラは懐からハンカチを取りだして、オレの顔に巻きつけようとしてくる。
慌てて顔を振るが、抵抗むなしく、やけに力の強い細腕に抑えられて視線を布で覆われてしまった。
なんということだ、これでは何も見えない。
ドアの開く音、「なんだ、これは……!」と先程の中年男と、ガシャガシャとフルプレートメイルを鳴らす兵士たちの感嘆の声。
オレは何が起きているのか気になりながら、ゴルゴンドーラの「しーっ」という、むかつく吐息に憤る。
「それじゃ皆さん、じっとしていてくださいね。すぐに着きますから」
ゴルゴンドーラの声に誰もが声を発して答えない。
何が起こるというのだ、今どこにいるのだ。
視界を塞がれ何もわからない中で、オレは肩に手をおかれた。
「あーんっん。跳びますから、すぐに戦場に着きますから威張る準備でもしておいた方がよろしいかと」
耳元で聞こえる恨めしい声。
「ゴルゴンドーラ、おまえ、かならず後悔させてやるぞ」
指にはめられた指輪たちに意識をむける。
その時、幼少期に鍛えられた魔感覚がほとばしる魔力の流れをさとった。
暗い視界のなか体を包みこむ、法外な純度の魔力に息を呑んだ次の瞬間……場の空気は変わってきた。
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