第56話 責任重大
はてさて、どうしたものか。
気配を極限まで希薄になったまま、顎に手をそえて思案する。
「はっは、前任大臣にサラモンド・ゴルゴンドーラが出てくると聞いていたが、
やつは戦場に現れていないというではないか。飛んだ腰抜けを我らは警戒しすぎていたようだ」
会議の終わった円卓の間。
若き皇帝は高らかに笑い、まわりの重役たちへ顔をむけた。
ちかくに控える参謀と魔法省の長老たちは、そんなご機嫌な皇帝へにこやかに笑いかえす。
「最後まで戦争に反対していた前魔法省大臣、そしてやつがゴルゴンドーラを恐れてたがために用意した過剰な戦力……全部が裏目にでてしまいましたな」
「十師団も兵を投入したせいで帝国の出費も馬鹿にならず、さらには勇者と宮廷魔術師たちを、
前戦線に投入したせいで、いまや帝都にのこる兵力はラビッテの涙ほどのみ」
「ほんとです、ほんとです、陛下。やつは市民の英雄の誕生に喜び、持ちあげる声を間に受けていただけです。ゴルゴンドーラごときを過剰評価しすぎなのだ」
皇帝の言葉に同意、賛同をしめし長老たちは盛大に俺のこと……そして恩人の前任大臣をディスりはじめる始末。
皇帝とその取り巻きたちは、その後もペラペラと気分良く俺の悪口をいいながら円卓の間を出ていく。
ひとり残された俺は、皇帝が座っていた座席に腰かけ、帝国の人間だったころは味わえなかった愉悦をたのしみつつ古典魔術を解除した。
高い天井をあおぎ思いふける。
なるほど、どうやら俺にはこの戦争に対して責任が……それも、とてつもなく大きな大きな責任があるらしい。
まさか、勇者を筆頭とした大戦力が俺ひとりのために用意されていたなんて、ふつうは思わないだろう。
俺は師匠から「人類の魔法史が始まって以来、最も偉大な魔術師」などと、
誇張されすぎた評価を受けたことはあるので、自分が魔法使いとして結構いい線いってるのは自覚している。
「けど、まさか帝国の軍の編成をそれだけで変えるなんて……」
思わないだろうが。
だが、実際問題、帝国の軍隊は俺のせいで無理した戦力を前線におくりこみ、そのせいで魔法王国は存亡の危機をむかえている。
もう迷っている余地など残されていないのは、もはや火属性魔力を感じるより明らかだ。
俺が、このサラモンドが戦争を止めなければ。
「……よし」
俺は覚悟をきめて、勢いよく腰をあげた。
そして、円卓の間を退出していった皇帝たちの一団へ追いつくべく駆けだす。
目指すのは、俺の悪口を言いまくっていたショタ。
幼女じゃねぇから、容赦はしない。
皇帝でも人質にとれば帝国もひくことだろうーー。
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