第55話 戦況報告

 

 帝国中もっとも偉大な魔法使いである宮廷魔術師、100年前の魔法王国侵攻で恐れられた「戦慄せんりつ十師団じゅっしだん」、そして最強を約束された英雄……勇者ルーツ。


「ゴルゴンドーラ様! お久しぶりです! ケプラー様とアナスタシア様のいない帝都を防衛なされるためにここに残られたのですね!」


「ああ、その通りだ。戦線は頼れる帝国の軍隊に任せてある。彼らが後顧の憂いなく戦えるようにするためにも、俺はこの都市を目を光らせて守っているのさ」


 尊敬の眼差しが痛いけれど、それ以上に亡命したはずの俺を、もろてをあげて迎えてくれる無垢な後輩たちが面白すぎる。


 敬礼し立ち去る俺を見送る若者へ、かるく手をあげて別れをつげる。


 だんだん楽しくなってきたな。

 もうすこし遊んでみるか。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 結局、誰に正体がバレるわけもなく、およそ長老たちが会議をしているであろう部屋の高級感あふれる扉のまえへ辿りついてしまった。


 会議室へと案内をしてくれた女性魔術師へにこやかに手をふってお別れする。


 若く、美しく、ハキハキと礼儀だしい娘だ。

 けど幼女じゃないので、さしたる興味は抱かない。


 魔力属性三式≪術式暴じゅつしきあばき≫。


 短杖たんじょうを扉と、周辺へかざして魔術式の痕跡をさがす。


 反応はなく、魔力の供給もなされてないことから安全と判断して俺は自身の気配をなくすべく魔法をかける。


 ーーコンコンッ


 杖を片手に完全に気配を絶った俺は扉をノック。

 

 部屋のなかからうろんげな声が聞こえ、すぐに扉は開かれた。


「ん? 誰もいない……?」

「たしかに音が聞こえたと思ったが」


 扉をあけた騎士礼服の青年は眉をひそめ首をひねる。


「気のせいだろう。気が緩んでいるのではないか」

「はっ、申し訳ございません」


 高く凛とした声に青年騎士は、スッと扉を閉じる。


 俺はそんな騎士礼服の青年のわきをくぐるようにして入室。


 見覚えのある老獪たちに悟られることなく、円卓の会議室のはじのほうにこっそりと陣取る。


 円卓に座する要人たちのなかで、俺がゆいいつ見覚えのない少年がゆっくりと口を開く。


「さぁ、報告を聞こうか」


「ははっ、報告をはじめます。

 4月4日、ローレシア魔法王国トールメイズ砦を落とした後の物質、捕虜の整理が9割完了しました。

 兵糧備蓄、固定魔法陣、魔力原動機式・単純魔導砲など、その他おおくの迎撃魔道具を再利用可能な状態です」


「ふむ、よろしい。ルーツの一撃が決め手となったと聞いたが、トールメイズ砦の損傷はどれほどだ? そのままローレシア側の砦奪還を阻止できるくらいには機能するのか?」


「損傷は極めておおきいです。ルーツ様の『ほし両断りょうだん』によってトールメイズ砦の門は大破してしまいました。

 砦に備え付けられていた大規模魔法結界は、その機能を停止しています。ケプラー様とアナスタシア様の報告によりますと、帝国の魔法技術では修復不可能とのことです」


「ふむ、トールメイズ砦をそうそうにとせたのはいいが、あまりにも強引にやりすぎたか……まぁいい、どちらにせよこれで魔法王国には十分な圧力をかけられた。

 次なるトライマスト要塞はトールメイズ砦ほど堅牢ではないと聞く。やつらは気が気でないだろうな。

 砦の修復作業をただちにはじめ、ローレシア魔法王国の反撃にそなえさせろ。修復が完了次第しだいふたたび進軍するのだ。

 とはいえ……くわしい判断は現場のバルバロフ大将軍に任せてある、現場を知らない我より、やつの判断を優先してもかまわないことを、この我が念押していたことをしかと伝えよ」


 円卓の最奥に座る少年は、報告をおえた青年へそう告げて、次に奪取した物質・武装などのくわしい数などを把握するべく、細かい報告をするよう礼服の騎士へ指示をだした。


 まわりの長老たちは強張った表情のまま、でしゃばる様子も見せずに黙っているだけ。


 若い者が役職につくことを嫌う、あの頑固で古臭い老獪たちがだ。


 ともすればあの少年には、老人たちにそれを言わせないだけの何かがある。


 そして、自信に満ち溢れたカリスタ的いでたち。


 まさか俺のいない間に、代替わりしていたとは。


 間違いないーーあの少年、新しい皇帝こうていだ。

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