第54話 意外と平気

 

 まさか、この俺の古典魔術をさりげなく解除する防御魔法が知らずのうちに組み込まれていたなんて……。


 防御魔法群の構築自体は、なにも変わっていなかった。


 つまり魔法省のほかの誰かが、あとからアップグレードしたということか。


「いやぁ! それにしてもまさか帝国の超新星たる、あのゴルゴンドーラ様に会えるなんて夢にも思っていませんでしたっ!」


「最後に姿を見たのが、修練場崩壊事件のときでしたのでもう1年もゴルゴンドーラ様の顔を見ておりませんでした。

 いやはや、遅ればせながら姫様を助けだした英雄的功績! さすがは帝国の全魔術師の目標とする魔導のの先駆者ですね!」


 誉めすぎた、1ミリも疑われてないよコレ。

 なんでそんなやりにくい事言うんだ。


 俺、敵だからね。

 ただいま絶賛諜報活動中だからね?


 外城壁の隅っこのほう、魔法省裏手の強固な防御魔法群でまもられた外壁のうえ、

 見張りをしていた帝国魔術師団のしたっぱたちに、菓子をだされたり、肩をたたかれたりしてもてなしを受けていた。


「どうぞ、飲んでみてくださいっ! このハーブティーは嫁が入れてくれたものなんですよっ!」


 見張り台のちかくの棚から、焼き菓子のもられた皿を片手に、青年が筒をもって近づいてきた。


 俺よりも若い、帝国魔術学院を出たばかりと思われる青年は、ニヤつきながら物理的にも愛情的にも熱々なカップをさしだしてくる。


 ひと口飲んで「うん、美味しいよ」と、無難な返事をかえすと青年はやけに嬉しそうにして、もうひとりの見張りと自分のぶんのティーをカップに注いだ。


「ふらっと自分の設計した防御魔法群の構築をテストされていたなんて、ほんとうにすごいですねっ!」


「んっ……まぁ、うん、高い給料もらってるし、これくらいはね……はは」


 適当についた言い訳を信じこむ純粋な青年へ、心のなかで平謝りをしておく。


 やれやれ、ここにいたら心に迷いが生まれそうだ。

 そうそうに先に進むとするか。


 俺は飲み干したティーカップを音をたてて置いて、焼き菓子を2、3個手にとって腰を上げる。


「それではな。今、帝国は戦争中だ。あいては眠れる獅子たる魔法王国。いつ帝都まで攻め込んでくるか分からないてまえ油断はするなよ」


「はいっ! ケプラー様とアナスタシア様も戦場へおもむかれている中、ゴルゴンドーラ様も大変忙しいと思いますが頑張ってくださいっ!」


 青年魔術師は手をふって、外壁をおりて魔法省へと侵入する俺をおくってくれた。


 すれ違う若い魔術師たちへ手をふりながら魔法省を堂々と歩く。


 はて、それにしてもケプラーとアナスタシア……帝国宮廷魔術師が2人とも戦線におもむいているとはな。


 これは本当に急がないとまずいな。


 

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