第52話 勇者の所在

 

 まぶしい太陽が青空で燦々さんさんと輝く。


 霧の谷底とはまるで違う景色のありように、幼少のころの感動を思い出し、俺は感慨深い気持ちになっていた。


 ナッシィを連れて帝都のなかをいく。


 世界最高の都市を自称するのは伊達ではなく、この帝都の街並みは人間国家で最大の発展を遂げたものといえるだろう。


 綺麗に舗装された石畳みが敷きつめられ、土の露呈する場所を見つけるほうが困難なほど、交通網は整備されている。


 道路脇には景観を確保するために樹木を植えるという、斬新かつ独創的アイディアが採用されていて、春をむかえた木々たちの萌える新緑に街は映えている。


 遠くに見える帝城、すぐよこに建てられた四角い豆腐型の魔法省、すべての建物がローレシアのそれとはくらべものにならない程に大きい。


「帝国は12ある騎士団のうち、10師団も投入したのか……? 加えて魔術師団まで戦線に投入してるなんて」


 帝都内の情報屋をあたりながら、俺はゲオニエス帝国が、どれほど本気でローレシアを潰しに来てるのかを悟っていた。


 国を滅ぼすレベルで気合が入っている。

 あるいは戦争を急いでいるのか。


 どちらにせよ、ちょっと


「ほれ、ぼうずや、あれじゃよ」


 黙して歩いていたナッシィがおもむろに口を開く。


 指差すさきへ、視線をむければ、そこには掲示板に張り付けられた巨大なポスターがあった。


 紙には「我らの勇者が盗人を打ち倒す」と、だいだい的に書かれており、『三勇者』のひとつルーツ家の、当代の勇者の似顔絵が描かれていた。


「まさか、最強を約束された英雄を侵略戦争に投入するとは……こんなのヨルプウィスト人間国や、他の勇者の家系たちが黙ってないだろうに」


「たしかにのぉ〜、冷静に考えたらゲオニエスはかーなーりーまずい事をしておるの。

 ただ、国も人も絶好調なときは盲目になるものじゃ。むかしから何も変わらんのじゃ。

 わしは戦争なんて無関心じゃったから、気がついた時には、世論よろんは引きかえせないところまで来ておったんじゃな」


 ナッシィはあくびしながら、他人事のように言った。

 いや、実際に他人事なのだろう。

 老い先短い人間にとっては、祖国の未来とか他国の未来とか、わりかしどうでも良くなるらしい。


 昔、師匠がそう言っていた。


 それにしても、やはり勇者が参戦していたらしい。


 あまりにもトールメイズ砦が陥落するのが早過ぎたから、薄々そんな気はしていた。

 だが、大昔からの暗黙のルールで、勇者だけは戦争に使わないという共通の認識があったので、

 心のどこかでは彼女を使わないんだろうと信じていたのだ。


「均衡は破られたな……帝国は、速攻で戦争の決着をつけないとまずいことになる。それがわかってるからこれほどに戦争を急いでいるのか」


 声にだして、帝国もまた危ない橋を渡っていることを整理する……そして、魔法王国がそれ以上に危ない状態だということも。


 さて、それでは今度は魔法省へと言ってみよう。


 情報屋では手に入らない、最新の機密情報が手に入るはずだ。


 この戦争を早急に終わらせるためにも、相手の手のうちを知らなくてはな。

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