第42話 兵力差
「お待たせしました、どうぞこちらへ、ゴルゴンドーラ殿」
門番兵士が連れてきたのは、立派なプレートアーマーに身をつつむ兵士……いいや、これは騎士だろうか。
ローレシア魔法王国の旗の印が刻まれた胸当てを張り、堂々たる振る舞いをするその騎士に連れられて、俺はローレシア城へと足を踏みいれた。
⌛︎⌛︎⌛︎
芝の敷き詰められた広大な裏庭で、屈強な騎士たちが剣をふり、鍛錬する姿をかたわらに、プレートアーマーを着込んだ騎士につづいて歩いていく。
「魔法王国騎士団の剣士たちは、最低でも剣気圧を扱えるあつかえる剣の才人のみで構成されています。
個の質ならば帝国騎士団におくれを取ることはありません」
「なるほど。俺に剣気圧の有無ははかれませんが、たしかに洗練された闘争者の気配がしますね」
適当に受け答え、裏庭のなかで兵士に指導され訓練する民兵たちをみやる。
本来なら、あちらの素人育成に兵士だけでなく、上級兵士である騎士団の人員をさいたほうがいいのだろう。
だが、時にはこうして精強な騎士たちがとなりで訓練することが、徴兵されたものたちを安心させることもある。
「どちらにせよ、楽な戦にはならなそうだ」
「……えぇ、そうでしょうね」
俺の言葉に、騎士は短く答えると、城の脇に併設された巨大な兵舎へとはいっていった。
⌛︎⌛︎⌛︎
「ようこそいらっしゃいました、サラモンド・ゴルゴンドーラ殿。あなたをお待ちしておりました」
ゆったりとした紺色ローブに身をつつんだ老人は、立派な白ひげをしごきながら一礼してくる。
魔術師風勢の老人のすぐとなり、筋骨隆々な腕をレザーアーマーより伸ばす、野性味ある中年の男が口を開いた。
「ゴルゴンドーラ殿、して帝国の内情を知るあなたの目から見て、これをどう思われますかな?」
兵舎のなか、ひときわしっかりした扉の部屋へと通された俺へ、さっそく一枚の羊皮紙が渡されてきた。
そこには数字がいくつか整理されて記されており、グラフのちかくに「兵」と書かれていた。
帝国と魔法王国の兵力差を見せられているらしいと、帝国側の見覚えある数字から桁から、なんとなく推測する。
「どう、ですか。ええと、帝国の動員兵力はだいたいこんな物だは思いますよ。ただ、おそらくは半年前の時点でほとんど実戦配備可能だった、
魔術師団も投入してくるかもしれないので、もうすこし多めに見積もったほうがいいかと。まぁでも、3000人くらいでしたかね」
「うむ、やはり予想通り……いや、予想通りであってしまったか……」
野獣のような中年の男は、深刻そうにまゆを寄せて、ちかくの側近らしき兵士となにかを話し合った。
俺は手元の羊皮紙に視線を落とし、春までに動員できるようになる兵士の数を確認。
「10万人……ですか。いや、これは希望的な値のように思えますから、実際はもっとすくないと。やはり、ほかの大国でないと、帝国相手にはどうしても人も物も比較にならず不足してしまいますね」
羊皮紙をかえしつつ、俺はため息をついた。
自分がかつていたゲオニエス帝国という国家が強いのは知っていた。
だが、まさかこれほどとは思っても見なかった。
敵に回してみると、戦う側はこんなにも重苦しい気持ちを味合わなければならないのか。
「サラモンド殿にはかつてのレトレシア魔術大学の中退生、魔術をかつて扱えた者、冒険者など、
ある程度の基礎的な力が身についた層の魔術師たちの育成をお願いしたい。引き受けてくれるだろうか?」
「魔術師の質と数だけが、我らが帝国に対抗できる唯一の札じゃ。なにとぞ、よろしくお願い申しあげる」
この日より、俺は家庭教師と兼業して、戦争へ動員される予定の民間魔術師たちの育成に取り組むこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます