第二章 智略の魔術師

第35話 弟子入り希望

 

 ご機嫌なレティス。


 朝起きてから、登校、そして授業、お昼に至るまでずっと機嫌がいいことはめったにない。


 大抵どこかで理由なく不機嫌になり、理不尽なぺちぺち攻撃を俺にくわえてくれるはずなのに。


「ふんふふ〜ん、レティスの無双の魔法使い♪ レティスの魔法は世界一♪」


 そうそうに俺から世界一の称号を奪ってしまったレティスへ、俺のチーズトマトパンを分けながら、どうしてそれほどご機嫌なのかを尋ねてみる。


「えー、だってレティスが世界最強の魔法使いってしょうめいされちゃったんだもんー! うれしいに決まってるわ〜!」


 やれやれ、ほんとうに可愛いな。


 ちょっと調子がいいとすぐ乗ってしまうなんて、抱きしめてムニムニしないと気が済まないじゃないか。


「あ、あの〜……」


 ぞろぞろと黒ローブをきた学生が集まってきて、5人ほどの集団の先頭にいる少年が、指を突きあわせ気恥ずかしそうに口を開いた。


「っ、レティスのファンの子かなー!? いいよー、握手でも、なでなでもしてあげるー!」


 すぐにレティスは反応。


「えっと、違うます。君じゃなくて、そっちのサラモンド教授に挨拶したくて」


「む、レティスお嬢様じゃなくて、俺のほうか」


 秋の寒さをやわらげる暖かい紅茶を飲みながら、顔をあげて若い声の衆の顔をまじまじと見つめる。


「どこかで見た顔だな」


「っ、覚えててくれたんですか! そうです、僕たちは半年くらいまえに冒険者ギルドでお会いした、パーティ『レト・ウィザーズ』です!」


「あぉ……思い出した、あの時の少年たちか」


 みんな格好があの時とは違う。

 冒険者用の厚手ローブを着てないのでわからなかったな。


「君たちはレトレシアの学生だったのか」

「ええ、レト・ウィザーズですから」


 言われてみれば、それもそうだな。

 なんたる安直だ、気づかなかったとは逆に恥ずかしい。


「サラモンド教授のほうこそ、まさかレトレシアで教鞭をとっていたなんて思いもしませんでした! どおりであれほど凄い魔術を使えるわけですね!」

「あぁ、いや、それは違うな……えぇと、ゲニウス、くん、だったかな?」


 かろうじて名前を思いだす。


「俺は魔術大学の生徒だ。ちなみに1年生だ。そして、同時にこちらにいるレティスお嬢様の家庭教師……兼執事ということになってる」


「えっへん! サリィはレティスの順々なるシモベなのよー!」


「まさか、あれほどの実力をもっていて1年生だなんて……以前は、えっと、どこかで魔法を勉強なさっていたのではないのですか?」


「いやぁ……まぁ、国の魔法省で宮廷魔術師をやるくらいには、たくさん勉強したが……学ぶっていうのは何歳になってもいいものだ。

 わかりきっているからと言って、そこから何も学ぼうしない奴に、それ以上の成長の機会はおとずれないのさ」


 まずい、ややカッコつけて言いすぎた。


 ゲニウスとその仲間たちが凄いキラキラした目で見てくる。


 あぁ、レティスまでそんな尊敬の眼差しで見てきちゃって、もう。


「サラモンド、教授、いえ……サラモンド師匠! 僕たちを、いや、僕だけでも弟子してくださいませんか!」


 図々しい申し出だな。


 貪欲に成長しようとするのはいいことだが、やはりレティスという最高にプリティな弟子をすでにとっている。


 それにコイツ、幼女じゃねぇじゃん。


 俺はすこし悩むふりをして、丁重にお断りした。

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