第34話 代理決闘 後編


 魔法を発動するのには、最低限必要な魔力のボーダーがある。


 現代魔術における高級魔法ほど、たくさんの魔術式を発動の際に処理しなくてはいけないので、必要魔力はたかまり、そのボーダーも比例してたかくなる。


 逆を、いえば魔法にたいして必要以上の魔力を込めることも可能だ。


 俺がかつて大白熊テゴラックスや、クルクマで紅のポルタに、風属性の初等魔法で風穴を開けたのがいい例だろう。


 どんな弱い初心者魔法も、魔力をたんと込めて発動すれば強力な魔法となりえるのだ。


 そして、それは魔法抵抗レジストにもいえる。


「≪火弾かだん≫!」


 高い声が火の魔法トリガーを唱える。

 

 迎え撃つ金髪少女も水の魔力をすぐに集約させ、魔力の球を撃ちだした。


 魔感覚を研ぎ澄まし、すぐとなりの茶色い執事服をきた男が、水の魔法へ遠隔で魔力を追加するのを察知。


 すぐさま、俺も青髪少女の火の魔法へ、俺の魔力をついかして、大火炎の一撃に昇華させる。


 炎と水の魔法は、これまでにないほどの相殺をもって、魔法陣のなかを爆発的な水蒸気でつつみこんだ。


「おい、おまえ、いい加減にしろ。レティスお嬢様の決闘に水を差すんじゃない」

「何のことだかわからないな。それより、パールトンの執事、貴様はなぜ杖に指かけている。リラックスして決闘見たまえよ」


 見つめてくる焦げ茶色の瞳。

 隣でぶつかりあう、レティスとペルシャの魔法。


 ほんとうに白々しい野郎だ。

 さっきから11歳の魔術師の決闘レベルではなくなっているじゃないか。

 

「えいっ!」

「負けませんわ!」


 本人たちは夢中になって気付いてないかもしれないが、これはもはや彼女たちの戦いというより、俺とタビデの魔力の叩きつけあいになってしまっている。


 ダビデは普段からこんな事やっているのか、やけに遠隔での瞬間魔力供給がうまい。見マネでやってみたが、これはそうとうに難しいテクニックだ。


「チッ、ダビデとか言ったな。おまえ後悔する事になるぞ。いますぐ杖をしまえ」

「訳の分からないことを……」


 引く気はないらしい。

 だったら、もういい。

 くだらない代理決闘は終わりにしよう。


 本来ならレティスのさきの一撃で決着はついていたんだからな。


俺はホルダーに収まった杖に指をかけるのをやめて、完全に杖をぬいて、グリップを握りこんだ。


 レティスの元気な発声で、ふたたび火属性二式魔術≪火弾かだん≫が詠唱される。


 今だ。


 俺は先ほどと同じ要領で、自身の魔力をレティスの魔法へいっきに送りこんだ。


 魔法抵抗レジストするために、ペルシャは必死に水の魔法をとなえる。ただ、どこかの野郎の魔力が補助ではいるため、その防御力はやけに高い。


 だが、もはや関係ない。


「っ、強い……ッ?」


 タビデの困惑した声。


 レティスの放った炎の恒星こうせいが、魔法陣を横切って、重なる厚い水蒸気の層をつらぬく。


 最後には、ダビデの補助をうけたペルシャの水の鉄壁を、まるで抵抗を感じさせずに輝く炎星えんせいが突破した。


「きゃっ!」


 魔法陣のそとへ、可愛らしくうめいて吹き飛ぶ影。

 

 俺のとなりの執事が姿をかき消すような速さでまわりこみ、影を受けとめる。


 決闘魔法陣のおかげで、あらゆる魔力は、着弾時に単純な空気の衝撃に変換される。

 ゆえに、ペルシャは火ダルマになる心配はないわけだ。


「ぺ、ペルシャ様が負けてしまわれた!?」

「パールトンのやつあんなに強かったっけ……ッ!?」

「やっぱりあの子は校長先生の娘なの……派閥乗り換えようかな……」


「レティスちゃん凄いっ! バリストンに勝っちゃったよ!」


 消沈する者、湧き立つ者、みながレティスにかつもくし、彼女にたいする考えを改めはじめている。


 レティスは無自覚の超魔法に困惑していたのか、しばらくぱーっとしていたが、

 やがて満面の笑みで「レティス、実はちょうすごいかもー!」と、超自惚れながら俺のもとへと駆け寄ってくるのだった。


 第一章 追放の宮廷魔術師 〜完〜

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