第15話 古式転移魔法

 

 レティスは俺のことを尊敬してくれている。

 だが、まだ尊敬が……尊敬ポイントとでも言うべき加点が十分ではない。


 数日にわたり、エゴスさんの企画した授業進行表にそって、魔術を教えてきて、そのなかで俺は何度とレトレシア魔術大学へいくことを薦めた。


 だが、レティスはなかなか首を縦にふってはくれなかった。


 ならばやはり、カリスマを見せて、魔術学院に行くように説得するだけの求心力を高めるしかない。


 そのための魔物討伐だ。


 パールトン邸に戻ってきた俺たち3人。


「サリィ、ここはなにー?」

「ここはエゴスさんに頼んで貸してもらっている、俺の工房だよ」

「ッ、サリィの魔術工房だぁー!」


 綺麗に整理整頓のいきとどいた、あまり魔術師らしくない工房へ、アヤノとサリィをいれてあげる。


「まだなにも作ってないけど、うかつに触ると危ない素材はあるから、うろちょろしないようにしてくださいね、レティスお嬢様」

「はーい! あ、何これ面白そー!」


 ーーバゴンッ


 さっそく、試験段階の魔剤ーー摂取して魔力を補う飲料ーーが爆発した。


「ぅぅ、サリィ……っ」


 涙目で見上げてくる、レティス。

 いたずらしたお仕置きに、くんかくんかしたい。


 それでプラマイゼロなはず。


 いや、やはり俺の方が確実にマイナス値が大きくなるから、ダメっぽいか。

 

 頭をなでるくらいにしておいて、お仕置きとする。


「これ、すごく綺麗ですね」


 アヤノが天井から鎖で吊りさがる、一振りの短剣に目をつけた。


「勝手にさわっちゃダメですよ」

「っ、わかってますよ! 私は大人です!」

「まぁその短剣ならいいですけど」


 ムッとして頬を膨らませるアヤノにペコペコしつつ、俺は工房の奥へ。


 スクロールやら、魔鉱石やらを落としながら、大きな作業机を押してどける。


 すると、床に大きく描かれた魔法陣が見えるようになった。


 未完成のそれに、魔力素材から作った特別なチョークで最後の仕上げを施していく。

 最後に行き先、『2839・クルクマ』と魔法陣をのなかに刻み込めば、準備は完了だ。


 手をはたき、工房のなかに置いておいた中杖ちゅうじょうを手にとる。


「うわっ、またすごいことを……んっん。立派な魔法陣ですね、サラモンド先生。いったい何をされるんですか?」

「サリィ、これなにー?」


 集まってきた2人の女性に魔法陣のなかへ入るよう指示をする。


「これは空間転移魔術をつかうための魔法陣です。これからレティスお嬢様と、アヤノさんには、クルクマの浸食樹海ドレッディナに行ってもらいます」

「え、ちょっと、情報量がおおすぎて内容が入ってこないーー」

「サリィは遠くから来たから、知らないのね、クルクマはとっても遠いい町なのよ!」


 可愛らしく慌てるアヤノと、自慢げに肩をすくめるレティス。


 華奢なおふたりの肩に手を置いて、俺はつま先で魔法陣のをたたいた。

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