第14話 パーティ勧誘

 

 驚愕、恐怖、尊敬、興味ーー。


 あらゆる反応が、たったひとり男を投げただけで返ってくる。


「てめぇ、よくもーー」

「古式魔術≪怪腕かいわん≫、属性を持たず、現代魔術にはない、いまはなき古代言語で構築された竜の魔法だ」


 右腕を振りかぶり、大きくな挙動でストレート。


「ぼぶへぇッ!?」


 またひとり巨漢が吹っ飛んでいく。


 残りのパーティメンバーは顔面を蒼白にかえ、もはや襲ってくることはなさそうだ。


「ほら、これに懲りたら魔術師を馬鹿にするのはよせ。見た目で人を判断するのは愚かだ。次はないと思えよ」

「は、はいィィィッ!」


 巨漢パーティは、壁際で気をうしなう仲間のもとへ走っていった。


 嫌に視線が集まりすぎた。

 ここはさっさと用事だけ済ませよう。


「ん、クルクマの侵食樹海、しかも浅部に、ポルタが出ているのか……ちょうどいいじゃないか」


 お目当ての依頼を見つけて、クエスト情報を頭のメモ帳に速筆していく。


 ーードタドタ


 走り寄ってくる足音。


「サラモンド先生、大丈夫でしたか?」

  「ええ、問題ないです。単純な力くらべならオーガとも張り合えますので」


 ちなみに比喩ではない。


「本当にすごいですね……オーガとなると、かなりの上位冒険者なのに。ええと、下から猫級、熊級……そしてオーガ級ですからね」


 冒険者のランクの話をしてるのか。


「いや、そういう意味じゃなくて、俺は本物のオーガと腕相撲をーー」

「サリィ、すごーいっ! 流石はこのわたしの先生よね! 魔術師なのにあんなクマみたいな人を、

 かたてで投げちゃうなんてぇえー! わたしのサリィは世界でいちばん強いわぁー!」


 レティスが嬉しそうに俺の腕をもって、ふにふにさわり、しまいには体いっぱい使って抱きしめてくる。


 俺も抱きしめて、もみもみ、くんくんかしたいけど、それだと言い訳無用でクビになりそうだから、ここは我慢する。


「あの、すみません、すこしいいですか?」


 天国の外側から、高い声が聞こえてきた。

 視線を向ければ、黒色のローブを着た若い青年が、うしろに3人ほどの少年少女を引きつれて立っていることに気づく。爛々と目を輝かせているな。


「なんですか」


 レティスを背後にさりげなくかくしつつ、応答。


「僕の名前はゲニウス。こっちのみんなは僕たちの熊級冒険者パーティ『レト・ウィザーズ』のメンバーです。魔術師のかたと見受けしますが、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「……まぁいっか。俺の名前はサラモンド・ゴルゴンドーラ。君のいうとおり魔術師だ」

「おお! やはりそうなのですね! 見惚れるほどに洗練された魔力だと思いました!」


 青年ーーゲニウスは、ローブの襟などをただし、背後の少年少女へ目配せして、こちらへ向き直った。


「サラモンドさん! 僕たちのパーティにぜひ入ってはいただけないでしょうか!」

『お願いしますッ!』


 一斉にさげられる子どもたちの頭。


 金髪少女も一生懸命に頭を下げていて、ついついオーケーをしたくなってしまう。


 やや俺の守備範囲をオーバーしているのが幸い。


 俺は理性をもち、冷静な思考をもって、彼らを傷つけないように考えるふりをする。


「うーん……無理ですね」

「サラモンド先生、当たり前です」

「サリィがいま、いっしゅんレティスの事裏切ろうとしてたー!?」


 ちょっと迷っただけなのに、辛辣なコメント。

 とても心が痛いが、俺は若者の冒険者パーティ『レイ・ウィザーズ』の勧誘を断ることにした。


「ごめんね、君たち」

「サラモンド先生、だから当たり前です。1秒も悩まないでください」

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