第13話 怪腕の魔術
レティスをつれて街をあるく。
「ねぇ、サリィ、いったいどこへ行くのー?」
「どこだと思いますか〜レティスお嬢様〜」
「うーん、わかんなーい! ねぇねぇ、アヤノー、わたしたちどこへ行くのー?」
「どこだと思いますか、お嬢様」
3歩後ろをあるいているアヤノの意地悪に、レティスはすっかりヘソを曲げて、ふてくされた顔になってしまった。
「あはは、すみません、レティスお嬢様。俺たちが向かっているのは冒険者ギルド、ていう巨大な人材派遣組合の施設ですよ」
「っ! ギルドね! レティスだってそれくらいわかってたもん。わたしたちはこれからクエストに出るのね!」
「うーん、それはちょっと違います。ただ、場所だけ確認しに行くんですよ」
「ばしょ? かくにん?」
愛らしく眉をゆがめ、考え悩むレティス。
そうこうしているうちにたどり着いた冒険者ギルドのなかへ。
巨大な魔物の骨の大顎のなかにつくられた、野性味とおしゃれの合わさったギルド内。
初めて来たけど、内装はゲオニエス帝国より茶目っ気があるな。むこうは実用性ばかり追求していた。
レティスとアヤノを適当な席に座らせて、掲示板へ。
「おっとっ」
「ん?」
背後から誰にあたられた。
「おいおい、ヒョロっちい野郎だな。そんな貧相ななりで掲示板のまえにボサッとつったんでじゃあねぇよ」
「……はぁ、やれやれ」
ため息ひとつ。
またこの手の輩か。
俺は自分の服装を見おろす。
パールトン邸の執事エゴスの選定してくれた仕立ての良い白ローブ。金の刺繍がはいっており、それなりに高級な品だと、だれが見てもわかるはずだが……。
いや、これは服というか、体格かな。
男を見あげる。
185……190センチはあるか。
対して俺は15センチは確実にひくい。
鍛えては来なかったので、肩幅もひろくはない。
だが、魔術師だ。
「あの、俺、魔術師ですよ」
ひとこと男にそうつげる。
「だからなんだ? 舐めてんのかてめぇ! ここ最近、戦いの場に出てくるようになったヒョロっちい野郎どもが、生意気だなぁ!
女をチームに加えてるような、軟弱なパーティもチラホラ見えるようになってきた。ここらでいっぱつ喝入れとくかぁ!」
巨漢の男は「おい!」と短くはいごへ呼びかけて、アゴをクイッと動かした。
「まさか、まだこんな古典的な思考をもつ人間がいたとは……魔法大国なのになげかわしい限りだな」
「うっへへ、痩せ我慢もそらくらいにしとけよ」
4人ほどならぶ男一色の冒険者パーティ。
振り下ろされる巨大な拳。
ーーパシッ
「ッ!?」
体に宿った記憶が蘇る。
巨漢の拳を細腕で受けとめる。
「なっ、てめぇ!」
「あーだいたいわかった。たしかに悪くない筋力だ」
短くそうつげて、術式への魔力供給をあげる。
右半身につたわる熱の波動を感じながら、下方へ力の加わる拳をうけながし、倒れこんでくる巨漢のむなぐらを、怪腕と化けた右腕でつかむ。
「舐めんなよ?」
「ヒィッ!?」
額を巨漢と突きあわせ、数センチ先の怯えきった瞳をのぞきこむ。
1秒後。
俺は巨漢の体を放り投げて、壁に叩きつけていた。
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