第11話 簡易練金


「ふぅ、こんなものですかね」

「サラモンド先生、これは?」


 アヤノが作業台のうえの、3つにまとめられた仕込み済み素材を見て声をあげる。


 それぞれ、赤色、青色、緑色の粉末だ。


「まぁ、その説明はあとにしましょう。まずは魔法を解除します」


 俺は額の汗をぬぐい、体内の魔力がゴリゴリ減っていく感覚に歯止めをかけて、「現象」を終わらせた。


途端に、魔術工房のなかの時間は密度を取り戻していく。


 加速する時間の流れに、アヤノは俺のひじにぴったりくっつきながら、こちらを見上げてくる。


「アヤノさん」

「っ、はい!」

「あの……胸があたってます」


 肘の柔らかい感触に、気まずくなりながら指摘。

 アヤノはボワッと赤面して、そそくさとはなれていった。


 ーーどぼどぼどぼっ


 ワイングラスを満たす音がもどってくる。


「サリィ、全部、いれたよ……?」


 表面張力をはっするほど、注がれた魔力溶液。


 アヤノは苦笑いしながら、溶液を巨大フラスコにうつした。


「レティスお嬢様、まずはこちらの赤粉末を溶液にいれてください」

「サリィ、これはいったいなに?」

「アガのクルミ、トレントの根っこ、魔物の骨を砕いたものです」

「ふーん」


 レティスは粉末を溶液のなかへ流しこんだ。


 続いて緑の粉末をいれて、混ぜ、魔力ランプで熱し、青の粉末を溶液のなかへ入れていく。


「サラモンド先生、浅識せんしきですが、たしかポーションの作り方はもっと複雑だったような……」


 アヤノの耳打ち。

 

「よくご存知で。これは錬金術師がもちいる方法じゃないです。独自で見つけた簡易練金法です。一番簡単で……手間に対する質は最高だと自負があります」


「ッ、サリィィイー! なんか光ったぁあー!」

「っ」


 レティスの声にハッと振り向くと、机のうえに安置されたフラスコがひかり輝いてることに気がついた。


 光はだんだん小さくなり、最後には完全に消えてしまった。


 巨大なフラスコのなかには、淡く光る半透明の青い液体が残っているばかりだ。


「さ、サリィ……っ、これって……」

「レティスお嬢様、おめでとうございます。青の治癒ポーション完成です」

「ッ! やったぁ! すごい、すごいわぁ、サリィ! 本当にわたしにもポーションが作れたのねー!」


 はしゃぐレティス。

 にこやかに微笑むアヤノ。


「あ、そーだ! サリィ、アヤノっ!」


 巨大フラスコポーションを抱えて、トタトタ走り、レティスは俺とアヤノに、腫れた手をだすよう言ってきた。


「わたしのポーションで癒してあげる!」

「お、お嬢様……ぅぅ、いい子です、いい子でじゅ……ぅぅ」

「えへへ、痛いの痛いの、とんでいけぇ〜!」


 感嘆し涙するアヤノ。

 暴走しそうになる理性をおさえ、黙す俺。 


 がわぁい゛い゛っ、天使すぎぃぃぃいーッ!


 ーービシャビシャっ


 ポーションを傷口にかけてもらい、アヤノと俺の手の傷はほぼ完治した。


「お嬢様、本当に成長されましたね。これならば学校に行くことも出来るかもしれませんね」

「うっ……学校は、まだいいやぁ……」


 おや、これはなんだが不穏な気配だ。


「レティスお嬢様は学校にいかれているのですか?」

「サリィ……乙女のせんさくなんてしちゃだめー」


 恥ずかしそうに顔を押さえて、レティスは外へ出ていってしまう。


 すこし調べる必要がありそうだ。

 

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