第9話 ポーションなんて作れやしない

 

 おいおい、もう勘弁しろよ……そんな心の叫びをむけてくるメイドの視線を感じながら、俺はレティスの後をおう。


「ほお、これ錬金術ショップですか」

「え、えぇ、そうです。ポーション作成に必要な、おっとと……落ちる落ちる……。えっと、そうそう、魔力触媒はだいだいここで揃います。もちろん基本となる魔力溶液も、です」


 ぐらぐらとして不安定なアヤノに心配の目を向ける。


「そんな目するなら、手伝ってください」

「仕方ないですね……はい、これでどうですか?」


 杖をぬき、かるくふって、アヤノの持っていた山積みの割れ物注意たちを、浮遊させて彼女を解放する。


 アヤノから「最初からやらんかい」っと、非難の眼差しがささってくるが、どこ吹く風でうけながそう。


「ねぇねぇ、サリィ。ポーション作れたら、わたし立派な魔術師になれるかなー?」


 錬金術ショップのなかで、溶液のはいった小便を振りまわして喜ぶレティスが聞いてくる。


 霊薬、こと外傷の治療に不可欠な治癒ポーションは人類の生みだしたもっとも偉大な発明のひとつ。


 当然作れたら、それはとても立派だがーー。


「おいおい、お嬢ちゃん、なにを訳の分からないことを言ってるだぁい〜?」


 おかしなアクセントのついた、クセの強い喋り。

 モヒカン頭をした、ガラの悪い黒肌の男が、首をぐわんをむけて血走った目をして近づいてくる。


 一歩前にでるアヤノ。


「おいおい〜ちんけな魔術師と、錬金術師をいっしょにするなよ〜。 魔術師は錬金術の勉強をすこしかじっただけで、

 自分たちが主役だってデカい顔するんだよなぁ〜っ、魔術師ににゃりたいお嬢ちゃんなんかにポーションは作れやしないよぉ〜っ」


「ぇ、な、なんで、なんでそんな、ひどい事いうの……、レティスは、レティスは、ポーションを作ってみたかっただけなのに……っ、ぐすん、ぅぅぅ」


 目の端から玉粒の涙をながし、引きつった声で泣きだす俺の可愛いレティスお嬢様。


 濃厚な殺意をもって、杖をぬき、目を見開く。


「≪汝穿なんじうがつーー」

「お嬢様を泣かせるなぁあッ!」


 視界を抜けていく黒い旋風。

 詠唱よりはやく、メイドの鉄拳がモヒカンをうがつ。


ーーゴギャッ


 嫌な音がした。


「うぎゃぁぁぁあっ!? いでぇぇえっ!」


 血を流し、鼻を押さえて床を転げまわる男。


 拳をおさえて、痛みに顔をしかめるアヤノは、「さっさと買い物を済ませてください」と言うと、よたよたとレティスをつれて、店を出ていった。


「いでぇぇ、いでぇえよっ……あの売春女め、よくもやりがったな、ぁ……!」


立ちあがろうとするモヒカン。


「おい、こっちを見ろ」

「あ? でめぇも、許さーー」


ーーバギャンッ


 おもっきり振り抜いて、怒りのすべてを男の顔に叩きこむ。


「うが……っ、ぁ、ぁ……!」


 気絶し、かけた歯を晒しながら、静かになった男。


「ちょっ、大丈夫ですか! ああ、ポパイが、倒れて、いったい何が!?」


店の奥から飛び出してきた、壮年の女性が、現場を見て焦りまくる。


 わけを話すと、すぐに理解してもらえた。


「ポパイがごめんなさい。彼は自分が錬金術師であることに誇りをもってるの、普段はそんなイカれたことしないんだけど……」


 申し訳なさそうにし、彼女は砕けた俺の拳を気遣うようにポーションをわたしてくれた。


彼女はすぐに使うことをすすめてきたが、俺はポーションをすぐには使わなかった。


 材料を買いこみ、店のそとへ。


「……あの、その手どうしたんですか」


 涙をうかべるレティスを抱っこするアヤノが、不思議そうに聞いてきた。


「名誉の負傷です。お気になさらず。さぁさぁ、美人さんたち、屋敷に戻りましょうか」

「それ、私を気遣ってーー」

「うぅ、レティスは、ぜったい、すごいポーションも、作るもん……ぅぅう」


 俺とアヤノは、グズり気味になってきたレティスをあやしながら、屋敷へと引きかえした。

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