第8話 硝子屋さん
さまざまな形状のガラスがならぶ棚。
カウンターの奥にひかえる筋骨隆々のにいちゃんが、微笑ましいものを見る目で、レティス、そして俺たちをみてくる。
「はっはっ、これはにいちゃん、可愛いらしい夫婦がやってきたもんだ!」
「軽口たたいてると、あたまをガラスに変えてしまいますよ?」
メイドのアヤノはスッと腰から短杖をぬき、圧倒的バルク誇る兄ちゃんへ、その先端をむけた。
店主はいっしゅん目を見開き……、
「すみませんでしたぁぁぁあーッ!」
全力の土下座で、視界からフェードアウト。
カウンターの下からひょこっと顔をだして、こちらをうかがいながら、プルプル震えている。
「アヤノぉー! なんであのお兄さんガクガクしてるのぉー?」
「お嬢様、それは彼が口先マッチョだったからですよ」
「へぇー! お兄さん口先まっちょだったんだねぇ!」
なにその単語。はじめて聞いたけど。
「お客相手に、あまりナメたこと言わない方がいいです。あいては魔術師かもわからないですから」
アヤノはそう言って店主に忠告すると、杖を腰のホルダーに差しこんだ。
店主もぶんぶん首を振ってるので、金輪際うかつなことは言わないだろう……というか、アヤノさん、そんな怒ることでしたかね?
「サリィ! わたし、この瓶がいいなー!」
レティスの持ちあげたのは、大きなフラスコ。
持ってみた感じ、なかなか重たい。
強度は十分だろう。
「レティスお嬢様、それではこれにしますか」
「ねぇ、サリィ! こっちのも可愛いと思うのぉー!」
次に渡されたのは、蒸留酒などを一気飲みするときに使う、ショットグラス。
たしかに小さくてかわいい。
レティスお嬢様も小さくてかわいい。
よし、買ってしまおうか。
「いいですよ〜」
「あ、サリィ、こっちのも欲しいわぁ!」
「ええ、もちろん、いいですよ〜」
「こっちの棚にあるのぜーんぶちっちゃくて、かわいいー!」
「レティスお嬢様のほうが可愛いですよ〜」
「あの、サラモンド先生……? そんなにいっぱい買っても仕方ないような……エゴスさんから頂いたお金には限りがありますので」
心配そうな顔で、財布の紐をゆるめるアヤノ。
俺はそんな彼女へ満面の笑みをむける。
「アヤノさん……ちょっと静かにしててくださいね〜」
「ぐっ! なんかむかつく……ッ!」
歯軋りするアヤノをすげなく、俺はレティスの欲しがるすべてを、杖をふってカウンターへと運んだ。
会計がおわり、金髪数枚分のガラス容器を買いそろえる。
「これだけあれば十分ねー!」
「あの……お嬢様、これはいったい誰が持つんですか……?」
アヤノが俺とレティスを交互に見つめてくる。
レティスはキラキラした眼差しで、心中おだやかじゃないメイドへ笑顔を届けている。
「俺には護衛の仕事がありますゆえ」
「っ、なんてタチの悪い甘やかし……っ!
俺はアヤノさんに、またしても嫌われてしまったようだ。
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