第29話 ぼんのう

 次の土曜日はこれまた天気良く、3時に細萱家を俺達3人で訪れていた。もちろん鯉を見るためだ。

 細萱さんは、縁側に座っていて、隣には俺たちが買ってきたお茶やスポーツ飲料がわんさか置かれている。

 池は網で半分に仕切られて、以前の鯉と分けられていた。

 俺が自分の鯉を探すのに夢中になっていると、日色実が

「あ。11匹いる。」

 と言う。

「いつの間にか金魚が湧いて出てなあ。一緒に世話をしている。」

 と細萱さんに言われて、


『でで』だ。


 皆で鯉よりも大きい金魚を眺めた。

 ナオちゃんは知っているだろうか。は元気だよ。

 日色実が気になったらしく、ナオちゃんも見に来ているか聞くと、

「もちろん、何時でも来ていいと言ってある。わしが居ない時は1人で来ないでお母さんと来なさいと言うてある。もしもの事があるといけんでな。」

 もうすでに何回か嬉しそうに見に来ていると細萱さんも嬉しそうにしている。

『ねこパ』の後で正司が、細萱さんは瞬間沸騰するかもしれないが、根に持つタイプではなく、すぐに忘れる人なんじゃないかと言っていたが俺もそう思う。鯉をきっかけに、お隣さん同士、上手く行けばいいな。色々な事が上手く収まりそうで、心が凪いでいたんだが、ふとおれの鯉の片目が潰れているのを発見してしまった。じっくり見てもやはり片目だ。

 200万の夢はもう無い。

 自分が思っている以上に煩悩はあったみたいで、そんな俺に日色実が

「どうしたの ? 」

 と聞いてきた。俺は何でもないよと答え、日色実と手を繋いで、200万の願いの鯉は青く高い空に浮かべてあげた。



  〜完〜

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恋金魚 陽 粋 (ひすい) @nekopasuta

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