第25話 鯉すくい
「鯉すくい…ですか ? 」
「ええ。鯉の稚魚。10センチ程の鯉の金魚すくいです。1回500円なんだけど、上手に育てれば200万円になる鯉もあるそうです。」
「ああ、そりゃあ池で飼いたいなぁ。うちの池の鯉もだいぶ減っていてなあ。ちょうどいいし、すくいにいくかや。」
細萱さんがうなずきながら言う。
「いいなあ。わたしも欲しい。」
すかさずナオちゃんが発言する。
「東農祭は10月1日2日だから、ぜひぜひ来てください。」
正司は持っていたバッグから文化祭のリーフレットを取り出し、皆に配り始めた。
「皆も自分の鯉を飼ってみるか ? 一緒に世話してやるで。 」
との細萱さんの言葉に、すかさず正司がヤッターと両手を上げる。ナオちゃんは目を輝かせる。社交辞令かもしれないので俺は、
「いいんですか ? 」
と念を押す。
「今池に2匹しかいないでな。昔は十数匹も飼っていたんだが。これも縁だでな。」
「私も行きます。私も専用の鯉が欲しいもの。」
細萱さんの娘さんも話に乗ってくる。
ここからは、どんな鯉を選べばいいとか昔飼っていた鯉の話とか、どんどん話が盛り上がっていく。
細萱さんの娘さんに一緒に行きましょうと誘われて、断りきれずにナオちゃん母も鯉すくいに参加することになっていた。
「じゃあ、明日あたり池の掃除をしとくわな。」
と細萱さんが言う。
「病み上がりなんですから、無理しちゃいけません。」
と、異口同音にマッタがかかるが、
「どうせ言い出したら聞かないんですから、私が手伝いつつ監視しますから、気にしないで下さいね。」
と、娘さんが話を閉めた。
ひとしきり鯉の話が終わると、話は細萱さんが倒れた当日の話に戻っていった。
「頭痛はするし、体調が悪くてなぁ。水分は取っていたし、夏風邪でもひいたかと思って好物のイカの煮物でもこさえるつもりだったんだが、今考えれば体が塩分欲しがっていたんかやあ。」
「凄い臭いだったから。丸山さんが、ビニール袋4重にして捨てたって言ってたけど、まだ酷い臭いだったから。よく、皆んな耐えたわよね。 でもまあ、尋常ではない臭いだったから、皆んなが気がついてくれたんだろうけど。」
と、娘さん。それに対して細萱さん、
「料理の途中で、ああ、こりゃだめだと寝たはいいが、あとの記憶がなくてなあ。ただ、布団の上だか、病院のベッドの上だかで、セミが鳴いててなあ。それが『ホソガヤー』『ホソガヤー』って鳴いてるのよ。あれはやっぱり夢かねえ。」
と言ったので皆爆笑した。
「もう、やだお父さん、皆んなが必死に呼びかけてくれてたんでしょ ! 」
笑いが起きたおかげで皆さらに和やかになって世間話が始まった。俺と親父はそっと席を立つ。
日色実も気がついてこちらへ来たのでメニューを渡して皆に何を食べるか聞いてもらった。
細萱娘さんがまたまた
「そんな事 ! 」
と遠慮しそうになっていたが、細萱さん自体は
「おー。こういう所でこんな洒落たものなかなか食べられないからご馳走になっていこう。」
と受け入れてくれて、さらに親父が
「細萱さんの快気祝いも兼ねてるんで。」
と鶴の一声で黙らせた。
俺母はみなを盛り上げ、俺と親父は張り切って作り、日色実は配膳を手伝ってくれた。
「わーい。皆んなで『ねこパ』だ ! 」
正司が喜ぶ。
はい。ねこパスタパーティの始まりです。
細萱さん、イワシのペペロンチーノお気に入りになりました。
ナオちゃんとナオちゃん母は、笑顔でまた来ようね、と言い合ってます。
皆におかわりさせました。
ピザを勝手に焼いてどんどんテーブルに置いて行きます。時間制限なしの食べ放題です。
俺は、疲れはしたけど良い気分だった。皆が美味しいを連呼して、笑顔で帰ってくれたからだ。
日色実と、ついでに正司も、細萱さんの娘さんが送ってくれると言うので、そこは甘える事にした。
「これ頂いたから。」
と、ポチ袋を渡された。細萱さんの娘さんに、俺へと渡されたそうだ。開けてみると、1万円が入っていた。先程働いたバイト代だろうか。
「じゃあ、今日の分の足しに…」
と、渡そうとするが、
「要らない。日色実ちゃんに使え。」
と断られた。
「誕生日プレゼントはもう渡したよ。」
「守り神は大切にって言ったでしょ。」
と、言われてしまった。
日色実、いつの間にかお目付け役から守り神に昇格していた。
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