第24話 細萱さん
細萱さんは、熱中症で入院したとは思えないほど元気になったそうで、娘さんと一緒にお礼に来たいと言われたのだが、断ってみても、病み上がりなのだからこちらから伺うと言ってみても、向こうの押し切る力が強くて、
それじゃあ、1回で済むように、うちに皆で集まりましょう。という事になった。
日色実と、正司、そしてナオちゃんもだ。もちろんナオちゃん母もお誘いした。
「もう、お隣さんからお礼言われてますから。」
と言われたが、俺母がグイグイとお誘いした。
『ねこパスタ』の休日である水曜日は、部活動無しの日なので、夕方来てもらう事にして、じゃあもう家のもの何でもお出ししましょう。と、いつでもエプロンつけられる態勢で、細萱さんを迎え入れた。
「すみませんねえ。人数が多いので、こちらでいいですかー。」
と、店の方の席に座ってもらう。総勢9人が座れるように席も繋げてあった。
細萱さん以外のメンバーは、もう既に席につき、それぞれが飲みたいものを飲みながら、クッキーをつまんでいる。
「ドリンク、何になさいます ? 」
お気になさらず、そんな事をして頂いてはお礼に来た意味が …とか辞退する2人をなだめすかせて、とりあえず席につかせ、
「ドリンク出したら、私も座れますから。」
と、俺母にいわれて、ウーロン茶を頼む2人。
全員席に着いて、改めて細萱さんの気持ちを受け取る事にした。
細萱さんは、立派な眉毛の持ち主だが、眉尻が下がっているので、見た目はそれほど怖い感じの人ではなかった。
「この度は皆様にご迷惑をお掛けしました。幸いにも、皆さんが見つけてくれたおかげで、こうして、元気になる事が出来ました。次の日だったら手遅れになっていたと医者に言われまして、感謝しかありません。本当にありがとうございました。」
と、父娘で立ち上がってお礼を述べた。
体はそんなに大きくないのに、生命力があるのか声が良く通る。
娘さんも、
「矢嶋さんから伺いました。救急車の手配も、体を冷やす処置も、手早く行なってくれて助かりました。こちら、受け取ってください。」
順番に、紙袋入りの何かを渡していく。俺父、正司、日色実、そしてナオちゃん母。
「それからこれね、お洗濯しといたから。新しいのを買おうと思ったんだけど、どこに売っているか分からなかったの。」
広げたのは、あの時細萱さんの頭を冷やしたタオルだった。シマウマやライオンやキリンの着ぐるみを着た女の子のイラストがプリントされている、汗かきの正司がお気に入りで持ち歩いていた物だ。
「ありがとうございます。普通じゃ売ってないんで、戻ってきて良かったです。」
と正司がニコニコと受け取る。
「あなたが、贈答用のお煎餅を、置いていったのかしら ? 」
俺を見て話しかけてきた。
あの日、手土産で持っていった物だ。
「あー。良かったら食べちゃってください。賞味期限まだあると思うんで。」
俺が答えると娘さんはちょっと可笑しそうに、
「まだ聞いていなかったけれど、そもそもの始まりは何かしら ? ナオちゃんには、池を見に行ったって、聞いたのだけど。 」
今更突っ込まれたくない事の発端を、何故か正司が待ってましたとばかりに話しだした。
「俺の高校の文化祭で、金魚すくいではなくて、鯉すくいをするんです。水槽でも飼えるんですけど出来るだけ池で飼って欲しくて東農祭へ来て、鯉すくいしませんか ? と、お誘いするはずでした。すみません、しょーもない話で。」
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