第22話 謝る。それから
次の日。
日曜日の代わりに入っていたバイト上がりに、ヒロミを俺の部屋に呼んで、
「ごめんなさい。」
と、謝った。
「え ? 何が ? 」
キョトンとするヒロミに、
「俺と正司の負の連鎖に巻き込んでしまってすみませんでした。」
と、もう一度頭を下げた。
「一昨日の事 ? ナオちゃんと連絡取ったのも、助けてあげたかったのも私だよね ? なんで大志くんが謝るのよ。」
「昔から俺と正司はやらかす事が多かったから、お目付け役のヒロミがいて、気が大きくなっていたかも。」
反省点を述べる。
「あー。じゃあ私、お目付け役失敗しちゃった ? でもね、日曜日の行動はベストだったよ。細萱さんが助かったんだから。…大志くん、なんでそんなに落ち込んでるの ? 」
俺がいつまでもしょぼくれているので、ヒロミは心配そうに聞いてきた。
「ヒロミが俺…ら ? とつるむのがダメだと判断されたり ? 嫌だと感じたら離れて行くかも ? だから ? 」
何か、言葉がうまく繋がって出て来ない。
ヒロミはふくふくと笑った。
「私、大志くんに守られてるって感じてたよ ? 大志くん、すごく大きく見えた。皆んな素早く行動して、私が一番ダメダメだった。とにかく、何も間違いな事はありません。細萱さんにとっても、私にとっても。」
そうか、間違いじゃあ無かったのか。
安心したら気恥しくなって目が上の方に泳いでいった。顔もそれを追いかけるように上を向く。ため息も上に逃げていく。
「大志くん ? まだ何か心配事 ? 親に何か言われた ? …今日バイト中普通だったけど…。」
「いや、違う。関係ない。昨日の夜、店の招き猫見ながらさ、ヒロミに似てるなーって思って。」
俺は正面を向いて何とか伝えようとする。
「大切にしたいと思ったんだ。ヒロミの泣き顔とか不安な顔は見たくない。」
ヒロミはいつもみたいにニコニコ聞いている。
「だから、ずっとそばで笑っていて欲しい。」
まだ、ヒロミはニコニコしている。
ごめん。分かりにくかった ? でも好きとか愛してるって、恥ずかしすぎて言葉には出来ないんだよ。
「だから、ずっとって言うのはずうっとなんだ。」
ニコニコニコ。
分からない ? そりゃそうだよね。こんなんじゃ。
「だから、付き合ってください。」
ようやく、お腹の底にある気持ちを招き猫様に押し出してもらった。
ヒロミの顔がハニワになった。通じたのか ?
沈黙が長く続いた。
…この沈黙は俺が破らなきゃいけないのかな ?
「びっっっっ。」
間が3秒。
「くりしたー。」
ハニワが解除されて地蔵に戻ってヒロミが言った。
「うれしい ! もちろんOKです。」
俺も嬉しい。
お互いにしばらく照れ照れとした後、いそいそと引き出しから包装された四角い物体を取り出してヒロミに手渡した。
「まだ早いけど、誕生日プレゼントです。」
「え ? 本当 ? 開けてもいい ? 」
「もちろん。」
丁寧にシールを剥がして包装をはずしていくヒロミを見ながら、喜んでくれるといいなー。と、ドキドキしていた。
取り出したのは、絵本だ。
ヒロミはゆっくりとめくり、じっと目を凝らしている。右手は表面をそっと撫でている。
「ヒロミはさ、手とか指で触ること好きでしょ。ぬいぐるみもそうだけど、俺の部屋来るとベッドの支柱の丸い頭、くりくりなでてるよね。コイントレーのザラザラ触ったり、点字案内があると必ず触ってるよね。」
だから、面白いと思って。
ヒロミにプレゼントしたのは、カラフルな点字絵本だった。
「泣き顔見たくないって言っていたのにごめん〜。」
と、泣き出したヒロミ。嬉し泣きだからと静観できずにワタワタする俺。
しばらくして泣き止んだヒロミに、
「本当、大志くんて人の事よく見てるよね。」
と言われたけれど、あんなに嬉しそうに色々触っていたら分かるよ。喜んでもらえてなによりだ。
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