第21話 守り神

 次の日に矢嶋さんから連絡が来た。

 細萱さんは病院で処置を受けると割とすぐ意識を取り戻したそうだ。

 電話台の所で緊急連絡先のメモ帳を見つけておいたので、娘さんに連絡が出来、必要な物を持ちに行ってもらった後で病院に来てもらい、入れ替わりに丸山さんも矢嶋さんも自宅へ帰ったそうだ。

「あの家、凄い臭いだったでしょう ? 」

 と言われて思い出したくない俺は、

「あ"ーそ"う"て"す"ね」

 と言い、矢嶋さんは笑いながら

「台所の生ゴミ受けにイカの内臓が放置されていたの。というか、イカ本体も放置されていたのだけど、暑かったから、あっという間に腐ってしまったのね。」

「あー、そうだったんですね。」

 と、俺は答えながら、もし、あれがイカなんかの匂いじゃなかったら、俺はどうしてたんだろう、どうなっていたんだろう。と思った。

「それから、あなたの親御さんの連絡先を、細萱さんの娘さんに教えておいていいかしら ? 」

 と、問われたので、ここまで来ればもう仕方なし。

「はい。家の電話番号は××××…で、夜の8時過ぎにして貰えたらありがたいです。」

 と、返事をした。

 昨日の事は親にも報告済みだった。


 細萱さんの娘さんからも、その日の夜に連絡が来た。親が一通り話をした後、直接お礼を言いたいからと、俺と電話を代わった。

 何度もお礼を言われるので申し訳なく思い、こちらも、自分勝手な理由で会いにいったこと、さらに断りもなく無断で家に入った事を謝った。

「とんでもない !! 本当に、1分1秒を争っていたんです。あのままだったら非常に危ない所だったと、お医者様にも言われました。命の恩人なんですよ、あなた達は。…まだ本人も退院出来ていませんし、直ぐにお伺い出来なくて申し訳ないですが、改めてお礼にうかがいますので。」

 …なんだか、叱られた気分で電話を終了した。

 親から小言などは言われなかったが、

「守り神は、粗末にしたらいけないよ。」

 と、母親に言われた。


 その日の夜。

 暗い中、店舗の方に入って携帯で棚の上の招き猫を照らしてみた。

 うちの招き猫は、ほぼまん丸なつるんとした焼き物の白猫で、お腹に金の唐草模様があり、左手が丸い側面に盛り上がるように配置されて人を招いている。

 顔は至ってシンプルで、線で真横に描かれた目と、ちょんとした鼻、細いひげ、口は無し。

 あまりにもシンプルすぎるせいか、見る時の俺の気分で色々な表情に見える。

 俺の中ではこの招き猫、家の守り神的な位置づけなのだ。

 小さい頃、家族3人で出かけて無人のこの家に帰って来た時も

「おうちの神さま、ただいまー。」

 と、あいさつしていたっけ。

 何か色々とやらかして心がざわめいたり、落ち込んだりした時も、これを見ながら反省を繰り返していたっけ。

 今回もやらかした感が俺を落ち込ませる。

 良かれと思って行動しても、後から失敗したって分かるんだよなー。今回、確かに自分でも人助けをしたと認識しているが、やらかした感がぬぐえない。何故だろう。そう思いながら招き猫を見ていると何か違和感が。なんだろう。じっと見ていてやっと気がついた。

 今までずっとこれ、母親に似ていると思っていたけど、この柔和な顔、ヒロミにそっくりだ。

 そうか、ヒロミを巻き込んだからだ。

 ヒロミの不安そうな顔なんて見たくなかった。

 ニコニコしていて欲しかったんだ。いつもの様に。

 と、思った途端何かがぶわっと湧き上がってきて、胸がバクバクした。

 明日、とりあえずヒロミに謝ろう。





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