第15話 10円ハゲ

 発表が始まるまでの間、周りはそれぞれに話をしている。

 正司はまたもや旧知の友のように、隣にいた男女4人のグループがどんな浴衣を着るべきか談議をしている所に乱入していった。俺も知らない他クラスの生徒だ。

「いやいやいやー、彼女に着せたい浴衣なら、フワッフワのやつでしょう ! 色はピンク、帯は兵児帯で、フリルも許す ! 」

 などとおすすめポイントを押しまくり、さらには

「彼女には浴衣、俺は雪駄だぁ ! 」

 ビシッと握りこぶしで熱弁する。

 そんな正司に笑いながら、

「今日、彼女さんはぁ ? 」

 と、ツッコミをいれてくれた。

「あー。連れて来れんかった。俺の彼女、外出るのきらいなんだよ。……マクラだから。」

「なるほどー。」

 笑いが起きる。

 まったく、物怖じしない得な性格だよな。

 でも…


 正司と出会った小3の頃、彼は頭の横っちょに10円ハゲをこさえていた。

「正司、これストレス ? 」

 休み時間にクラス替え前からの友達であろう数人が正司を取り囲んでいた。

「刺激するといいっていうぞ。」

「こういうの、10円ハゲっていうよね。じゃあもう少し大きかったら500円ハゲ ? 」

「そんなのつまんねーよ。お札ぐらい大きくなきゃ。」

「さつハゲかー。」

「万札ハゲ。」

「正司、四角く剃ろうぜ。」

 それに対して、

「やだね。剃ったらゾリゾリするもん。このつるつるの手触りがいいんだよ。」

 と、正司。

「ほんとだー。つるつるしてる。」

「つるぷにだあ。」

 おもちゃにされているのに、嫌がりもせず、

「つるつるで気持ちいいだろー。あげないぞー。」

 と、まったく気にする風でもなく、闊達に言い返していて、

 朗らかなやつだなー。

 と、遠くから眺めていた。

 そのうちに興味が他のものに移って、取り巻いていた友達は離れていったのだが、その時に正司は誰にも見られず小さく『ふうっ』とため息をついたのだ。

 ああ、そうなんだ。と思った。朗らかでひょうきん者なのは本当だろうが、やはり小さな無理はしているのだ。本人は気が付かなくても。

 俺は正司の所まで行って

「僕だったら、ハゲ六つ作って六文銭ハゲにする。もし、やるなら一緒にやるから、大丈夫だよ。」

 と言ってニコっとした。

 実際何が大丈夫なのか自分でも分からなかったが安心させてあげたかったのだ。

 正司は驚いた顔をしたが、そのあとニカッと笑った。


 後で聞いたが、まだ友達ではない単なるクラスメイトに気づかいをされて、何かほっとして嬉しくなったそうだ。



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