第14話 浴衣クイーン選
次の日。文化祭最終日。
今日も正司はやって来た。
9時から2時間、俺達のバルーン当番の時間に教室に来て、まるで違和感なく同級生達と馴染んで、自分のポンプで一緒にバルーンアートをしてくれた。
しかも目玉シールを買ってきてくれたので、子供達だけでなく俺達も、
「シール貼るのへたすぎぃ ! 何そのラリってる目 ! 」
「いやいや逆にそれは目玉近すぎでしょ。」
「花はともかく、剣に目ん玉必要無いでしょ ! 」
「誰だよ、ライオンのたてがみン所に目玉付けたやつ。」
と大盛り上がりだ。
ヒロミともう1人の女子は、
「男子うるさいねー。」
「ねー。子供だねー。」
と言いながら、やって来た子供たちのリクエストを聞いている。大人も、勧めると結構嬉しそうに風船を持ち帰ってくれる。みんなハッピーだと嬉しいものだ。
12時過ぎに今日は3人でうどんを食べ、浴衣クィーン選の手伝いにヒロミは慌ただしく去っていった。
正司がチラリとこちらを見る。
「ヒロミちゃんに渡された ? 」
あああ、そうか。昨日一緒にバザーで買い物していたっけ。
「何買ったかバレないように俺の荷物の中に紛れ込ませていたもんね。」
得意げに言ってくる。
そうか、講堂から出て来る時はヒロミ手ぶらだったもんな。
「俺の誕生日プレゼントって言っててさあ。お返ししなきゃな。」
頭かきながら言うと、
「ヒロミちゃん誕生日9月27日って言っていたもんな。」
と、サラッと言われてギョッとした。何故、知ってる !!
「お前の誕生日が2月22日で、にーにーにーで猫みたいだなあって俺が言ったら、『言うだけで笑顔になれる誕生日うらやましい。私なんて9月27日で何もインパクトない。』って言ってたからね。ちなみに俺達の『東農祭』は10月だから、バザーで買おうとしても間に合いませーん。」
いーや、バザーでは買いませーん。ちゃんと、探しますよ。
「さ。浴衣クイーン見に行くか、ヒロミちゃん出ないけど。」
「応。」
「浴衣クイーン選、もうじき始まりまーす。」
会場に着くと、入り口の所でうちわを配りつつ、呼び込みをしていた。
マーブル模様に染められた手作りのうちわでばたばた扇ぎながら始まるのを待つ。
「昔から思っていたけどさあ、浴衣って金魚みたいだよなあ。華やかだし、ヒラヒラしてるし、ふわふわした帯もあるし。」
楽しげに話す正司に、
「思ったより楽しみにしてるんだな。浴衣好きだった ? 」
意外そうな俺が意外だとでも言うように正司は目を丸くする。
「浴衣嫌いな男子おるん ? 彼女と浴衣着て夏祭り行きたくないん ? ちょっと日常から離れた美学でしょう ! 」
押し寄せてくる正司を押し返しつつ、
「あ、始まる、始まる。静かにしよう。」
と、回れ右を促した。
「皆さん、こんにちは。今日も暑いですね。1年1組から順番にクイーン候補が皆さんへご挨拶いたします。9人の中で、誰がクイーンに相応しいか、是非投票してくださいね。では、1番からお願いします。」
進行係がマイクを進み出てきた1年1組の子に渡す。
紺色の浴衣に花火の柄で、赤いふるふるの帯をしている。
「1年1組、野中スミレです。この浴衣と帯は去年おばあちゃんに買ってもらった物で、わたしのお気に入りなんです。ポイントとしては、甘すぎないダークな赤の兵児帯です。」
へー、『へこおび』って言うのかあのふるふる。
2番目の子。
生成っぽい生地に、青い朝顔が咲いている。帯は紫色。
「2年2組浅野結奈でえす。わたしの浴衣はぁ、麻の浴衣でえ。あ、名前があさのだからじゃあないですよ ? えへへ。ポイントわぁ、柄の大きさでえす。背がたかいのでぇ、はっきり大きいこの柄にしましたー。」
ほう、そうなのか。背の高い子は大きい柄ねえ。と、ヒロミの方をチラ見する。この会場に入ってすぐ、どこにいるか見つけていたんだよね。他の女子に囲まれても背が高いから見つけやすい。
「あれー、ヒロミちゃんと見比べてる〜 ? あの子も可愛いもんねー。」
ニヤニヤと正司が言う。
「いや、語尾を伸ばす子はちょっと。」
やんわり否定したら、
「やっぱ、ヒロミちゃんじゃなきゃだめかー。」
いや、そこ2択じゃないだろう。
それからも次々と縄文土器みたいな柄の浴衣、藍色の浴衣にキリリと黄色の帯、ピンクのフリフリ浴衣など色々な浴衣が披露された。
見学者の中には男子や一般の人も結構いたけれど、とにかく女子が「かわいいかわいい。」「きれーい。」「先輩がんばってー。」
等と騒がしく盛り上げていた。
最後に総勢9名壇上に並んでポーズをとったり、後ろ姿を見せたりして、後は集計まちになる。
皆渡された紙に番号を書いて用意されたダンボール箱へ入れていく。クイーンになった子は、タスキをかけてカゴに飴を入れて配りながら校内を練り歩くそうだ。
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