第8話 田舎

「お前が一番太りやすいのに、大丈夫かよ。」

 いつでもムッチリ体型の正司に釘を刺す。

 しかも、食べる速度が。

 食べるの早いぞ、おい、よく噛めよ。と、もう一度突っ込もうかと思った時に、ヒロミが口を開く。

「わたし、昔は小ブナの甘露煮が好きだったの。」

 たい焼きの形から、連想したらしい。

「おばあちゃん家にいくと、よく作ってくれたんだけど、ある時ね、平鍋いっぱいの甘露煮のなかに、1匹オレンジ色のがいてね、」

 あー。まあ、金魚もフナから発生してるしなァ。

「それ見た時から、なんか食べられなくなっちゃって。」

 ちょっと、しんみりした表情。俺達も、どうコメントしたらいいか悩んでいると、

「あ。でもイナゴは今でも食べられるよ。」

 なんと ! 衝撃の事実をありがとう。

「俺は、タニシ食べたことあるよ。ちっちゃい時って、大人が食べてるもんは、ふつーに食べるよね。」

 と、正司が言う。

 俺はムリ。イナゴもタニシもハチノコもきっとムリ。でも、対抗心がやっぱりわいてきて、

「自分が食べた話じゃないけど、アメンボに血を吸われた事は、あったなあ。5〜6 匹つかまえて、こう、手で覆って運んでいたら、すごく違和感があって、手の中のぞいたら血で真っ赤でさあ。」

 それを聞いて、心持ち引きつった顔のヒロミ。

「やつら、オタマジャクシとかの体液吸って生きているから、俺も生き血吸われていたわけ。」

 力が入ったらしく、ヒロミの手の中の半分になったたい焼きから、あんこが出てくる。

 俺は、にーっこり笑って、

「だいじょーぶ。人の血の味を覚えた奴らは、すべて制裁しました。」

 と言った。

 そのあと、カブト虫はカブト虫くさいとか、オタマジャクシからカエルになる途中の、体がカエルなのに口がオタマジャクシのおどけた様子とか、田んぼに水が入ったとたんに夜中カエルの合唱がはじまるとか、マンホールのフタの溝をへびがぐるぐるまわっていたとか、カラスに追われて逃げるトンビの情けないピーヨロとか…

 田舎の話題は話が尽きない。

 わいわいさわいで、6時過ぎに正司がヒロミを送って帰って行った。

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