第9話 バルーンアート

 毎日部活に汗を流し、学校の提出物を何故かヒロミにチェックされつつ、つつがなく夏休みを過ごしてあと残り1週間程になったので、休み明けの文化祭に向けてのバルーンアートの練習をすることにした。

 1年3組、俺達のクラスは 1、2、3班に別れて、1班は教室の飾り付け、2班は土曜日を2時間ずつ担当、3班は日曜日を同じ様に担当する事になっている。

 休み前に学校で、地域で活動しているバルーンアート講師の方にお越しいただいて作り方を教わっているから、あとはグループごとに自主練することになっていたのだ。

 俺とヒロミで1つのバルーンポンプを借りられたので、俺の部屋で練習する事になっていたのだが、面白そうだからと正司も一緒に練習する事になった。

 まず、取り敢えずは空気の逃げ道分の、ふくらませない部分を残しつつ、ポンプで風船をふくらませる。お手軽な手動ポンプなので、結構力がいる。3人揃ったところでヒロミと確認しつつ正司に教えていく。

「まず始めにここら辺をキュッとひねって。」

 実は、まだ慣れないので教える俺もおっかなびっくり。

「左手で、こうやって押えつつ、もう一度おんなじようにきゅっと…」


「ぱあん! ! !」


 正司のやつが、ふざけて叫んだ。俺の心臓も破裂しそうになった。

「お〜ま〜え〜なあ ! 」

 両手はふさがっているので、足でゲシゲシと蹴っ飛ばしてやる。

 正司は、アハアハと笑っていたが、急に真顔になった。不思議に思って振り返るとヒロミの口がへの字になって、土偶のような眼差しで、静かに怒っていた。あーあ。お地蔵さん怒らせた。

「「ごめんなさい。もうしません。」」

 何故か一緒に俺も謝り、そこからは熱心に練習を開始した。

 3人で、キュワキュワ音をさせながらトンボを作っていく。

 次にうさぎ、剣、はな、ライオン…

 いくつか作るうちに慣れてきて、楽しくなってきた。

 それでもまだ下手くそで、耳が長すぎるうさぎや、ツンとしてミミズのようなシッポになったプードルや、羽がちいさなトンボなどを量産した。

 正司がはまりにはまって、

「俺、これ買う ! 」

 と言って、ポンプと風船のセットを早速ネット注文していた。

 俺も気にはなったが、すぐ飽きると思って我慢した。

 安いんだけどね。その分、文化祭当日がんばろう。

「ああそうだ、これ渡しとく。」

 俺達の通う岩田高校の文化祭、岩高祭のリーフレットを正司に渡す。

「おー。どれどれ、あ。焼鳥がある。お好み焼き、焼きそば、うどん、綿あめ、ジュース、かき氷…。最初は何食べよう。」

 食べ物総当りで食べるつもりらしく、順番決めに余念が無い正司に

「1日目は、俺もヒロミも特にやる事ないし、一緒にみてまわろうぜ。」と、言ってみた。

 俺は陸上部主催の出し物は特にないし、係のほうも事前準備ばかりで、一般公開2日目のバルーンアート以外はやることなく、暇している。

 ヒロミもほぼ似たようなものだが、2日目の浴衣クイーン選の手伝いに、かり出されるそうだ。

「お主ら2人共、俺様のについてこられると申すのか。」

 と、悪ノリする正司に、

「いや、だから、食べ物だけじゃないって。」

「他のも見て回ってよ。」

 と、俺とヒロミで突っ込んでしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る