第4話 タケノコ
蛇口の下の水滴を拭き取りながら、聞くともなしに4人客の話が耳にはいってくる。なにしろ4人共30〜40代ぐらいのご婦人たちで、子供の話で盛り上がり、かまびすしい。
「本っ当に痛感するのはね、女の子と男の子の違い。そりゃあ個性があるんだから、おとなしい男の子も、やんちゃな女の子もいると思うけど、女の私から見たら男の子って別次元の生き物。リエが理性でやらないことも、トオルは、それこそ率先してやるの ! この間なんか亀の水槽に頭突きして、破壊したわよ。もう、やんなっちゃう ! 」
と、まるまる婦人が話す。
「わかる ! 男の子って馬鹿よね〜。」
と、素敵ブラウスの婦人。
「え、トオル君、頭大丈夫だったの ? 」
もう1人のふとまる婦人。
ちなみに俺は『おばさん』という言葉は使わない。小学生の時に、店を出ていくご婦人たちの1人がハンカチを落とした事があって、拾って渡す時に、
「おばさん、落としたよ。」
と、声を掛けたのだが、
「ありがとう。」
という言葉とは裏腹に、何かビミョーな顔をしていたのが気になって、母親にどういうことだろうかと聞いたことがあった。
「気にする事はないよ。」
と言いつつも、
「先程まで高校のときの昔話でもりあがっていたから、体はおばちゃんでも、心は10代のままだったんだろうね。大人はね、大人っていう生き物じゃあなくて、真ん中が10とか20才で、ひとつずつ年が重なってできていくんだよ。タケノコみたいに。」
と、教えてくれた。
幾重にも重なる皮をむかれたタケノコの、柔らかい穂先を切り込んでしまったのか。悪気はなく、親切心で。
それからは、きちんと『お客さん。』と、呼びかけるようにしている。
「いや、でもね、家庭内でおさまる事ならいいのよ。兄弟喧嘩とかね。うち、この間、警察から電話きたもの。」
やんちゃな子供を持つ親に見えないおっとり笑顔婦人が言う。
警察のワードで一気にわきたつ奥様方。
話を要約すると、空き家の庭で、友達とキャッチボールしていたら、そこの家の窓を割ってしまったと。当然、空き家といっても持ち主がいるわけだから、連絡をとるにあたり、近所の駐在さんが介入し、確認や報告を含めて、親に連絡がきたらしい。
「今まで平々凡々いきてきたから、すーっごくドキドキしたわよ。」
確かに、普通に生きていたら警察と関わることはあまりないのかもしれない。
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