第3話 ぬいぐるみ達

 カラン、カラーンと、表のドアのカウベルが鳴った。

 客が2名、続けて4名。

 連れでもないのに、続く時はつながってはいってくるよね、客って。

「いらっしゃいませー。」

 振り返ってあいさつするヒロミ。俺の横をのっそりキッチンへ入っていく親父。

 ヒロミは見た目が地蔵顔だからか、のんびりした性格がにじみでているせいか、不器用そうでトロくさいイメージなのだが、スポーツとちがってリズムがとりやすいのか、動きに無駄がなく、安心感がある。

 とはいえ大変そうなのには変わりないので母親おふくろがもどってくるまで手伝うために部屋で着替えて来ることにした。

 階段登ってすぐ右が俺の部屋だ。

 ロフトベッドに勉強机、整理ダンス、本棚。

 一見カッチリとした部屋をなごませているのは海とも森ともいえる、緑から青のグラデーションのかかったカーテンと、

 クッションのふりしたぬいぐるみとか、ティッシュボックスのふりしたぬいぐるみとか、ゲームセンターの戦利品のふりしたぬいぐるみ達である。

 小学生や中学生の途中ぐらいまではぬいぐるみ集めの趣味は人に知られるのが死ぬほど恥ずかしかったが、今はそれほどでもない。

 今1番のお気に入りは60cm程の大きさの目玉焼き型のぬいぐるみで、本当は枕として使用したいのだが、

「男の子って、いつのまにかオヤジ臭くなっているのよー。掃除をやりに部屋にはいったら、まず窓をあけなくちゃ。」

 という母親同士の話を以前聞いたせいで、大切な目玉焼きが親父くさくなるのが嫌で、枕の横に飾って我慢している。

 自分じゃ気がつかないそのにおい、ヒロミは何も言わないので、まだ大丈夫だと思いたい。

 ざっとシャワーを浴びて上下を着替えて下へおりていく。

 エプロンつけて、オーダー票みて、親父の手元みて、サラダの盛り付けをする。親父はめったに指示をださないし、やってほしい事も言わない。こちらが判断し、邪魔にならないように手伝うだけだ。

 ドリンクを配り終わったヒロミがこちらに来たので、トレイへ盛りつけの終わったサラダ4つを乗せてあげる。

 3人で黙々と作業をしていると母親が帰って来た。

「ただいまぁ。お。大志お帰り。」

 いつでもえびす顔でほがらかな母親1人いるだけで、ずいぶんと場が明るくなる。

 ヒロミはどちらかというとにこやかな感じで母親が何か楽しげに話しているのを隣でニコニコ聞いている、ということが多い。

「ひろみちゃん、上がりの時間だよ。ピザ焼いたげるから上でたべといで。」

 母親の一存で、俺はフロア係に押し出された。

 ヒロミはうれしそうに、自分用ピザのトッピングをちまちまとはじめた。

 うちはパスタもピザも少し小さめで、値段も手頃なので、お茶の時間にも注文があるし、食事時はピザとパスタ両方頼む人も少なくない。

 ヒロミは、客たちの楽しげな声に背中を押されてピザの皿を持って2階に消えて行った。

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