第2話『いけまつ』

 しっかし、うちの母親とヒロミの気が合うこと、気が合うこと。

 見た目がこれほど違わなかったら十人いたら十人とも、親子だと思った、というだろう。

 もともと誰にでも気さくなうちの母親は、店に飾ってある40センチのまねき猫よろしく、ころんころんとした体型で、美人ではないが活発で、肌ツヤ良く働き者だ。

 それに対しヒロミの方は身長は俺より高く、肩幅けっこうがっしり、骨太な感じで筋肉質っぽくみえるけど、以外に文系で、バレーなどの球技はほとんどが苦手だそうだ。

 そして表紙が漫画っぽい小説を読むのがすきだ。

 顔は…目が細いが柔和な顔で、ま、おじぞー様のような顔だ。かわいいといえばかわいいが、自分より目線が高くなるお地蔵さまってのもねえ。

 俺はといえば、ここだけは親父に似てくれよー、という期待を裏切って、ただいま身長163cm。やせてはいるものの、このままいけば

 まねきねこDNAがメタボ体型を引っ張ってくる。なので、くわばらくわばら言いながら、陸上部で走りまくってるわけである。

「夏休みなのに大変だね。」

 と、夏休みなのにバイトをしているヒロミに言われる。

「昼飯は ? もうたべたの ? 母さんは ? 」

「たべたよ ! 1時間まえに ! 『いけまつ』へいったよ ! 」

 3つに質問に3つの感嘆符つきで答えがかえってきた。

「『いけまつ』か…」

「うん。『いけまつ』だね。」

 2人でニヤリと笑い合う。

 中華いけまつは、うまくて早くて安いので、小澤家御用達のお店なのだが、それとは別に注目すべき点がある。お店の前に出すのれんに、それぞれ1文字ずつ『い』『け』『ま』『つ』と染め抜かれているが、風か、客がくぐった拍子か、のれんが竿にからまったままになっている時があるのだ。

『い』『つ』とか、『い』『ま』ならいいが、この間あろうことか

『け』と『つ』になっている時があって、

「誰かなおしてやろうぜ〜」

 と、つっこみながら大笑いしたことがあった。それ以来、

 いけまつの前を通るときは、必ずチェックをしなくては気が済まなくなった。

「俺も食いたくなってきたな。」

 ぷちっとつぶやくと、

「あ。でも今日の夜ごはん、天ぷらそばにするって言ってたよ。」

 俺より先に夕飯のメニューをご存知なのか。

 それにしても、夜、そばにするつもりなのにラーメンたべにいったのか母親あの人は。

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