恋金魚

陽 粋 (ひすい)

第1話はじまり

「ただいまぁ。」

 裏口の戸を開けて中にはいると、親父がイスに座ってコーヒーを飲んでいた。

「おう。おかえり。」

 背が高くてギョロ目で無口なうちの親父は、頑固なラーメン屋の親父が似合いそうだが、

『ねこパスタ』

 と言う名の喫茶店をやっている。

 表側が店舗、裏と2階が居住スペースだ。

 軽くシャワー浴びてから廊下を通って2階に上がる前に、ちょっと店をのぞいてみる。

 2人しか客がいない。ガラガラだ。

「おっかえり、大志君。」

 カウンターの向こう側を、ダスターで拭いていたヒロミが声をかけてきた。


 彼女に、このバイトを紹介したのは、俺ということになる。

 高校にはいって、隣の席が彼女だったのだ。うっかりである。

「小澤君、何かおいしそうなにおいがするね。」

 と、話しかけられて、うちはピザがメインの喫茶店なので、たぶんその匂いが制服についていたのだろう、と話したら、まるで俺自身がピザであるかのように喰いついてきた。

「え? え? だーい好きだよ、わたし。」

 いや、聞いてないんですけど、別に。しかも何? その怪しげな言葉。『ピザが』を付けてくださいョ。

 その後彼女はうちにピザ食べに来て、土日、長期休みはバイトに入る約束を取り付け、夏休みに入った今は、毎日バイトに来ている。






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