第8話 図書室戦闘
二階のランチルームの横を通り抜けて角へ。
「元気な子がいないから、ランチルームのドアは自動ドアではなくなったみたいだね。実に便利になった」
……この皮肉は聞かなかったことにしておこう。
ちなみに、ランチルームも実質に見なかった風に通りすぎた。
で……図書室のドアの前で是認、立ち止まった。
「はい。お望みの場所に到着しました。じゃぁ、さっそく」
奈美はそんなことを言いつつ、図書室の扉をスライドさせる。と、同時にすぐにピシャリと閉じた。
「図書室で静かにしてくれなさそうな人たちがいっぱいいた」
……要約すると、化け物が図書室の中にいたということですね、わかります。
奈美は締めたドアを窓からちらりと確認する。そのまま、ゆっくりと全員で一度図書室から距離を取る。
「……どうする? ……まだ向こうは気づいていない見たいだから、ひとまずここはスルーするっていう手はあると思うけど」
化け物がこっちの存在に気づいていたら、前みたいにドアをどんどんとたたいてくるはずだ。それがなく、静かなところを考えると、たしかに気づいていないのだろう。
……しかし……、図書室……。
「……だったら……奇襲して倒してしまわない?」
一樹の提案は想定外だったらしく、奈美は目を丸くしてこちらを見てきた。
「……ずいぶんと思い切ったこと言うね……。……もしかして……図書室をどうしても利用したいから、ついに戦う覚悟ができてしまったとか?
なかなか安そうな覚悟なこと」
なんかバカにされたのかな? ……されたよね……。
「……いや、別に……そういうつもりじゃ……」
形として首を横に振って否定しておく。
しかし、となりで聞いたいた綺星がふと言う。
「本読みたいからじゃないの?」
「……」
それもあるよ……。というより、本が読める環境ができるだけで、だいぶ安心感が上がるという個人的な意見はあるにはある……。だけど……。
「図書室って情報の宝庫だよ? もしかしたら、この状況の突破口だってこの中で見つかるかもしれない。
この学校の中じゃ、一番頼りになる情報源は間違いなく図書室だと思うんだよ」
「……なるほどね……。言いたいことはわかる……。まぁ、実際、図書室が役立つ場所になることは……あたしも最初から思ってはいたし……。
それに奇襲だったらなんとかなるかな……」
奈美は自身の腰に巻いた上に手をかけて、じっと目をつぶる。
横で、化け物の姿になろうとする綺星がいたのだが、それはあっさり奈美によって止められていた。
「ちなみに、何体ぐらい居た?」
奈美は思い出すようなしぐさを見せつつ、顎に手を当てる。
「……本棚の裏にも隠れているかもしれないから……正確な数はわからないよ……。少なくとも二匹だね。もっといると思っていいと思う」
「ちなみに図書室ってドア、ふたつあったと思うけど……どうやって攻め込む? 二手に分かれて挟み撃ち?」
「いや、ひとつのドアから入ろう。端っこから安全に進めよう。綺星ちゃんを守りながらってこともあるし」
自分は守られるつもりはない、とでも言いたげな綺星。抗議するように奈美を見ているが、奈美は特に気にする様子は見せない。
「じゃぁ……、図書室では静かにしてもらいに行こうか。あたしたちはこれから臨時図書委員だ」
「……図書委員が図書室でこれから、大暴れして殴って蹴って、銃をぶっ放すのか」
「むしろ、いまのあたしたちより、化け物のほうが静かかもね」
一樹と綺星の指摘に奈美は少し口を止めたが、すぐニコリと笑った。
「すてきな図書委員をみんなで目指そうよ」
再び図書室のドアの前までくる。頭を低くし、静かに近づく。そして、ドアの両サイドで配置についた。
一樹と奈美、システムに付随されていた小さめのピストルを片手に握り締めて構えた。
奈美があいたほうの手でドアを開けるタイミングを合わせるように手を振る。
「……いくよ……」
一樹と綺星、同時に首を縦に振る。奈美がそれに答えるよう首を振り返してくると、同時。一気に図書室のドアを開けた。
ピストルを前に突き出し、開けられたドアの前に立つ。真っ先に視界に入ってきたのは二体の化け物。見た瞬間、一気に引き金を引く。
本来、こういうのはどちらがどちら側を狙うとか決めてから行くべきだったのだろうが、今回はそんな打ち合わせはゼロ。
しかし、うまい具合に奈美の狙いとは八合うことなく、二体の化け物が同時にふたりの銃で打ち抜かれた。
化け物がひるんだ瞬間、一気に図書室の中に飛び込む奈美。ひるんだ化け物のうち一体の懐へ一気に入りこむと、蹴りをたたきこんでいた。
「……マジか……」
普段の奈美の性格からすれば、あまりに大胆な攻め方に驚きを隠せなかった。だけど、そんな感想を抱いているほど暇な状況ではない。
一樹も必死にもう一体の化け物に狙いを定め銃口を向ける。
その狙った化け物が奈美の背後を襲おうとしていたが、それを銃の攻撃でひるませキャンセルさせる。
だが、化け物は臆することなく、対象を瞬時にこちらへと切り替えてきた。
グンと勢いよく攻めてくる化け物。慌ててさらに引き金を引くが、かすめるだけでひるませることは出来なかった。
まずい……、
とっさの判断で銃での攻撃を諦め、代わりに全身を武器にすることにした。とにかく全力で体ごと化け物にぶつかっていく。
そのタックルはしっかり化け物を巻き込むことができた。
音を立てて床へ一緒に倒れこむ。
「一樹くん!」
さっき床に落として銃を後ろから投げてくれる綺星。
その異様なレベルで完璧なアシストをしっかり受け取り、倒れる化け物の頭を至近距離で打ち抜いた
「……はぁ……はぁ……よし……」
なんとか倒せた……。
「響輝くん! 横!」
安心してしまった矢先、奈美の声が聞こえてくる。だが、その意味を理解するより先、一樹の体は横に吹き飛ばされていた。
視界が数回横転して停止。なにが起こったのかわからないまま、気が付けば視界いっぱいに化け物の顔が広がっている。
だが、化け物が一樹に攻撃をくらわすより先に、化け物の体は大きく宙を舞っていた。
遅れて視界の情報が読み取れるころには、化け物の姿に変貌していた綺星の足がそこにあった。
綺星によって蹴り上げられていた化け物は向こうにあった本棚に激突。大きな音を立てつつ、本棚とともに床に倒れていった。
「……ありがとう……」
化け物から姿を戻しつつある綺星に礼を言う。すると、その瞬間、一樹と綺星の間で一体の化け物が吹き飛ばされていった。
「よし……片付いた……。奇襲成功だったね」
どうやら、さっきのは奈美が蹴り飛ばした化け物だったらしい。すでにその化け物は壁に激突し、完全にのびきっている。
冷静な顔で銃を引き、トドメの引き金を引くと、図書室の中は無事、静かになった。
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