第9話 図書室の本
ひとまず図書室の中にいた化け物はすべて倒しきることに成功。全部で四体、特にケガもなく掃討できていた。
にしても……想像よりずっと闘いに覚悟を持てていた。あっさりと化け物を一体倒せたし……。
奈美はじきに戦い方を覚えるという感じのことをついさっき言っていたが……、……これ、マジの話なのか。
「……ずいぶん図書室で騒いじゃったね……」
ひとつ派手に倒れてしまった本棚の近くでつぶやく奈美。腰に手をあてその悲惨な惨状を眺めている。
「……騒いだっていうか……、そういうレベルじゃないよね」
過去に図書室で、騒ぎに騒いだ挙げ句、本棚を倒した事例がもしあったとしたら、ぜひとも教えてほしい。全力で叱りにいってやる。
となれば、ひとまず自分で自分を叱らないといけないけど。
奈美は本棚から離れ、今度は綺星のもとへと歩み寄った。
「ところで、綺星ちゃん? 大丈夫? ちょっと力を使ったみたいだけど……」
綺星は自分の体のあちこちを見て確認している。もうすでに化け物の姿ではなくなっている。完全に普通の一年生。
「大丈夫……、一瞬だったし特に疲れてもないよ」
「……そう。よかった」
ふたりが会話している間、一樹は倒れた本棚に近づいていた。
本当に、派手に倒れてしまったものだ。本来なら立て直したいのだが、残念ながらこの大きさは子供三人でどうこうできるものではなさそうだ。
パワー自体はあるかもしれないけど、体形や道具、状況、モロモロを考えたら……無謀か。
でも、せめて散らばった本だけでも……。ん?
「……待って! これおかしい!!」
思わず、唐突に叫んでいた。散らばった本のひとつを手に取ってページをめくっていく……。ダメだ……、これは……。
「一樹くん? どうしたの? なにがあったの?」
一樹の叫びに反応して後ろに来る奈美。そんな奈美に対して、手に取っている本を広げて奈美に突き付けた。
「これ、真っ白。どのページも」
そう言って本のある見開きをポンとたたいた。そのページは完全に無地であの字も書かれてない。
「……うそ……。いや……ほんと」
奈美も予想外だったのか、はっきりと驚いた表情をして見せた。となりで綺星も不思議そうに一樹が持つ本をのぞいてくる。
「……ちょっと貸してもらっていい?」
「どうぞ。……なんの価値もないけど」
真っ白なページしかない本はさっさと奈美に渡してほかの本棚に駆け寄った。
さっきの倒れた本棚にあった本は見た感じ真っ白の本ばっかりだった。でも、ほかの本棚はそうとは限らない。
とにかく、かたっぱしから棚に入っている本を引っ張りだしてページをめくっていく。……だが……。
「これも……、これも……? ……これもっ!?」
すべての本棚の数冊を地面に落とし、最後の本棚の一列をごっそり落としてはっきりとわかった。
「……ここにあるのは全部本じゃない……。……いや、本と言えばそうかもしれないけど……ここの図書室は……張りぼてだよ」
「……みたいだね」
奈美は床に落ちていた本を拾い中身を見た後、パタンと音を立てて閉じた。
「手が込んでいるというべきなのか、手抜きだというべきなのか、それすらよくわからないよ」
綺星がしゃがみ込み、大きめの本を床に広げながらページをめくって言うr。
「なんで、こんな真っ白な本ばっかりになってるんだろう」
なぜか……、そんなのわかるはずもない……。
「一樹くんが言ってた目的の逆だと考えられるよね」
だが、奈美はそう言って本をひとつ、本棚に戻した。
「図書室に入れば、なにかしら情報が得られるかもしれないって考えだったよね? だったら、この白い本の目的は……あたしたちに情報を与えないためってことじゃない?
「だれが?」なんて質問はなしだよ」
なるほど、シンプルに考えればそうなるか……。
でも……これは……本当に……結構くるものがあるな……。結構ここには期待していだだけあって……。
単純に本が好きだってこともあるけど。
……、というよりここまで徹底されていると……な。
響輝たちは一階で脱出口がないか探索することになっているが、この感じだと……簡単に見つかることはなさそうだ。たぶん、大きな成果は得られず帰ってくることだろう。
「……で、どう? 満足はした、一樹くん?」
「……それって皮肉? ……あんまり笑えないけど」
もう、さんざん床に落とした白い本など拾う気もなくして、その上をまたぎながら奈美のほうへと近づく。
「でも、……ありがとう。約束通り、図書室には来られたから」
「じゃぁ……、今度はあたしが行きたい場所があるんだけど、付いてきてもらえる?」
「行きたい場所?」
奈美につれられるように、図書室を出て、さらに奥へと進んでいく。通常教室棟まで行くと、さらに奥へ……、突き当たりまで一気にきた。
「ここが奈美ちゃんの着たかった場所?」
綺星が不思議そうに目の前にある教室のドアを見ている。
実際、一樹も疑問に思っている。一樹が行きたかった図書室とは違い、目の前にあるのは普通の教室だ。
三年一組の教室……。
「はっ! そうか! あの傷!」
「そう。そういうこと」
「……どゆこと?」
正解と言いたげな奈美と理解できないと言いたげな綺星。
綺星への説明も込めて今一度、図工室で見た傷を思い出す。ダンボールをあさっていた時、その奥の壁についていた傷跡だ。
「図工室の壁にあった傷のことだよね……。たしか、『3-1』っていうのだったと思う。それの確認?」
「まぁ、あれがなにを意味するのかはわからないけど……3の1って言ったらここしかないんだし……。なにかあるのかもしれないからね」
お互いに首を縦に振り確認しあう。しかし、それより先に綺星が教室のドアに手をかけていた。そして、言う。
「開かないよ? これ」
「「……えぇ!?」」
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