第5話 机ホリホリ
学校に閉じ込められてからはや、三日が過ぎようとしていた。
カンッカンッカンッカンッ
あれから一度、みんな疑心暗鬼な状態に落ちてしまってはいた。
だが、喜巳花や奈美を始めたとしたみんなの持ち前のキャラクターで気を取り戻せていた。
カンッカンッカンッカンッ
時にはバカみたいにはしゃいで、みんなで円を囲んで食事をする。なにひとつ変わらない外の景色を見つつ時間を過ごす。
カンッカンッカンッカンッ
ずっと図工室に閉じこもっていたため、退屈だと思う時はあった。だけど、それを口にすることはなかった。
カンッカンッカンッカンッ
「ほら、見てや! ついにちょっとやけど壁に傷つけられたで!」
「「うるせぇ!!」」
一樹と響輝のツッコミが決まったのはピッタリ同タイミングだった。
喜巳花はここのところ、ノミとハンマーで壁を掘るというなんともやばい暇つぶしをおこなっていた。
おかげで耳の中が今でもノミの音が響いている。
ちなみに、一日以上掘っていた見たいだが、つけられた傷は本当にうっすらといった感じ。深さは一ミリもない。
それは、ありえないレベルで頑丈な壁であることを示している。
「このままやっていったら、壁に穴開けられるんとちゃうん!? 先生もやーへんから叱られることもないで。……腕いたーてしゃーないけど」
なんて言ってハンマーとノミをそこらに放りだすと床に転がった。
「あ~もう、飽きた。腕いたいし、手ぇ痛いし……」
奈美が机に肘をつきながら寝転がる喜巳花を見る。
「ちなみに聞くけど、喜巳花ちゃんって、彫刻刀で机彫ったことあるでしょ」
「なんでわかったん!?」
パッと顔を上げて言うが、すぐに首を傾げさせた。
「って、言いたいけど。あんま覚えてないな。彫刻刀って使ったころあるやろか? まだ使ったことないかもしれへんで」
が、すぐ親指を立てて見せた。
「でも、多分持ってたら彫ってた。それは自信もって言える」
「自信もって言うな!」
奈美のツッコミは気にも留めず立ち上がる喜巳花。そして、やったらと悪い顔をしだす。
「あっ、ていうかここ図工室やったら、彫刻刀ぐらいあるやろ。よっしゃ、机ゴリゴリ彫ったろ」
「やめい!!」
鼻歌うたいながらあちこちの引き出しを開けて彫刻刀を探す喜巳花。なんというか、楽しそうに机を彫る喜巳花の姿は容易に想像できるな。
「喜巳花ちゃん、もうすでに彫ったことあるよね?」
ふと、そんなことを言い出した綺星。自身が座る前の机をチョンチョンと指さしている。
「なんでわかるん?」
バッチリと見つけてきた彫刻刀を片手にヒョコヒョコ歩いていく喜巳花。
ちょうど近くにいた奈美も一緒に顔を綺星がさす机に向けている。
「あっ……、彫っちゃってるね……、で、埋められちゃったか」
「なんや、うち彫ってるやん!」
なんでそう決めつけるのか気になったので一樹も顔をのぞかせた。すると、その机には彫られた跡が残っているのがわかった。
パテが埋められて直されているのだが、色が違うためかろうじて見える。『キミカ』という文字が。
「でも、同名の別人が彫ったかもしれないよね。それか……『君か』って意味かもしれないし」
一樹は君の例えとして喜巳花を差しつつ言う。
「喜巳花さん、彫った覚えないんだよね?」
「いや、そー言われたらそんな気してきた。思い出してきたような気ぃする。いや、知らんけど」
「どないやねん、ってツッコミを待っていると、とらえていいの、それ?」
あれだけツッコミせぇと言っていた喜巳花は、軽く一樹をスルーすると机に彫刻刀を当てる。
「先生め、せっかくうちが彫ってあげたのに埋めやがって。しゃあないから、また掘り起こしといたろ」
「喜巳花ちゃん、君ぜったい彫ったことあるね。そしてぜったい、なんども先生に怒られてたんだよ。で、先生が埋めてはまた掘り返して……。
ぜったい覚えていないだけだね」
まぁ、彫って“あげた”っていうセリフからもうなんか違うからな。しかも、ご本人めっちゃ楽しそう。
「喜巳花ちゃん、いい性格してるね。先生も君のこと、よく見てくれていたと思うよ」
「え? ごめん、なに? 聞いてなかった」
「……いい耳もしてるみたい」
先生がため息つきながら埋めたであろう穴を、周りの声が聞こえないほど集中してかつ楽しそうに掘り起こす喜巳花。
もう、その姿はどう考えても常習犯。
「いっ!!」
……指を彫ってケガするテンプレまで披露してくれた。
「……彫刻刀を使うとき、お留守の手は前に置かないようにしましょう」
「いや、そんなんええから。バンドエイドちょーだい。ウエストポーチに入ってるやろ?」
ほれほれ、と血が出始めた指を奈美に見せつつバンソウコウを所望する喜巳花。奈美は見せてくる指から極力視線を外しつつウエストポーチに手をかける。
が、止めた。
「……これで懲りた?」
「ぜんぜん」
清々しいくらい真顔で首を横に振る喜巳花。
しばし待って奈美はウエストポーチを締めなおした。
「……じゃ、あげない」
「待ってや!? あかんって! なんでやねん! ちょーだいや!」
「ツバつけとけば治る」
「治らんって、深いねんっって! 痛いねんって! ほら、見て! 見てや、ここ!」
「ええい! 見せるな! 痛々しい!」
……とまぁ、こんな感じでバカやってるんですわ。うん……。というか、こいつら、前のことは忘れてるんじゃないだろうな。
「一樹~、バンドエイドちょうだいや~。あのあほ、下の子がケガしてんの見てもほったらかすねんで。ないわ~」
……こいつ、ぜったい忘れてるな。
自分が腰に巻いているウエストポーチからバンソウコウを取り出し、喜巳花に渡す。後ろから「渡さなくていい」と言っている奈美がいたがまあいいや。
「ほんまありがたいわ~。ライトはかしこい子やね~」
と言って頭をなでられた。
しかし、なぜだろう。褒められてなでられて、ここまでうれしくないのは初めてだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます