第6話 そして二階へ
「そろそろ食料がなくなってきたな。さすがに、もう次に動いてもいいんじゃねえか?」
昼食ももうじき取り終わるというころ、響輝はダンボールに顔を突っ込みながらそんなことを言い出す。
「……たしかに……、食料がなくなれば……どうしようもないからね」
奈美は少し不安そうな顔を浮かべてそういった。
ここのところ、実はこのふたりの意見はわりとはっきり対立してくるようになってきていた。
文音は極力この教室から出ないで、助けが来るのを待つべきだと言っていた。
化け物がうろついている以上、廊下に出るのは危険がともなう。
教室の中から出ないでいることが、もっとも安全で生き延びられるという考え。
たいして、響輝はむしろ積極的に教室を出て移動するべきだと。探検して脱出できる手だけがないか調べるべきだと。
また、一樹たちはまだ一階はおろか、二階にもまだ降りていない。
一回の昇降口……、すなわち普段登下校で使われる出入り口に行けば、意外とあっさり出られるかもしれないだろ、という話。
これは、どちらの意見も間違っていない。響輝も奈美の意見を一方的に否定することはなく、奈美も響輝の意見が間違っているとは一言も言わなかった。
結果はこう、まずは数日この教室で様子を見る。助けが来そうになかったら、今度は響輝の提案に乗るという形。
「わかったよ……。じゃぁ、まずは二階まで……降りる決心はつけようか」
奈美は全員を集めて地図を開いた。
「いま現在は図工室。食料がある場所、すなわちパンマークが付いてる教室で一番近いのはここ、多目的ホール。
ちょうどここの真下だね。ここなら数分でたどり着ける」
まぁ、打倒だ……というより、それ以外の選択肢は見受けられない。すぐとなりの階段を使ってちょこっと降りればすぐそこが多目的ホールだ。
危険性も少ない。
「ちなみに、奈美ちゃん」
地図に顔を近づけて言う綺星。
「うやむやになってたけど、屋上につながる階段って結局どういう話になったんだっけ?」
なんの話かはわからなかったが奈美は思い出したようで、ああっと声を漏らす。響輝は綺星の話を聞いて、手に顎を置いた。
「なるほど、屋上か。たしかに外には出られるかもしれないよな。いくらアーマーをつけてても飛び降りてまで脱出したいとは思えないが……。
それこそ、助けを呼べるかも」
「いや、無理だったよ」
響輝が想定されたプランが冷たく一蹴される。
「扉、当然のように鍵がかかってた。鍵を壊すこともドアをやぶることもできそうになかったよ。……蹴ったりしてみたけど、あたしの足が痛くなっただけ。
おまけにあのあと化け物に追い込まれてさんざんだったよ」
少しひきつった顔をしつつ左下に顔を下げた。
まぁ、でも想定の範囲内だとは思った。そもそも普段から屋上はまったく解放などされていなかったはずだ。
この状況だったら開いた、なんてのは夢物語だろう。
「なら、やはり目指すのは多目的ホールだな。みんなは、ここを出る準備はいいか?」
一樹は響輝の問いにコクリとうなずく。だが、喜巳花は少し離れて自分が使っていた毛布の近くにしゃがみ込んだ。
「残りの食糧は持っていくとして、毛布とかはどうするん? 行った先にも毛布が用意されてる保証はないで。
ましてや行きしなに落ちてるとも思えんし」
「いや、でもそれは置いていこう。もし、化け物との戦闘になったら毛布は邪魔になるだけだからね。向こうになかったら、あたしと響輝で何回かに分けて取りに戻るし。
ひとまずたどり着くことを優先しよう」
たしかに毛布は結構厚くて重さもある。ひとりで何枚も持てるようなものでもない。まずは、行き先が安全であることをたしかめるのが最優先というわけか。
でも……ふたりだけで運ばすというのは……。
「もし、そうなったら僕も手伝うよ」
「あっ、うちも~」
一樹にあわせて手を上げる喜巳花。
そうだ、全員で助け合えばいいんだ。そうすれば、なんだってできる。
「まぁ、でも。懐中電灯くらいは持って行こか。ここにはひとつしかないし、集められるかもしれないからね」
奈美はそう言っておいてあった懐中電灯を手に取る。
「喜巳花ちゃん。彫刻刀はいらないかな」
「え? いや、武器に」
「なるか!」
もはや愛着すら沸いていたらしい彫刻刀を握り締める喜巳花。うん、ぜったい多目的ホールにある机も彫り散らかすつもりだったな。
「いや、でも……あいつの言いなりになるのはしゃくだが……」
響輝が用意していたらしいハンマーを手に取って何度か物を殴る素振りをして見せる。
「武器を持っていくってのは必要かもしれないぞ」
「……それは……その通りかもしれない……。なにか武器をひとつ手に持っているだけでも違うかもね……」
「ほらっ、ゆうた通りやん!」
喜巳花は指の間に彫刻刀をはさんでこぶしを作って見せる。できたのは三本の爪が生えたようなこぶしを手前でクロスさせている喜巳花の姿。
「楽しそうでなりより」
奈美はそう言い愛想笑いを浮かべ自分が持っていく武器を選んでいた。
結局、手ごろなハンマーを片手に持ち肩にかける奈美。真剣な表情でここにいる全員と顔を合わせる。
「さぁ、気を引締めて、行ってみようか」
決意と覚悟を胸に、移動を開始した。
ガラッ
「やったね。なんなく着いたやん」
「なんにも出くわさずにこれたな」
数分後、耳や鼻をほじくりながら多目的ホールのドアを開けている喜巳花と響輝の姿があった。
「一瞬で終わったYO!」
気合が泡となり消えてしない、奈美の頭がちょっとおかしくなったのはご愛敬。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます