エピローグ HEROs
藍明守学園都市は極東の島国では最も隆盛する経済区である。ここに加わろうとする周辺都市は多い。
その中でも神代市は武藤ニュータウンの南に位置するベッドタウンである。2年前から地元企業、藤原興業によって、土地の整理や再開発が進み、レジャー施設も生まれた。代表的なのが神代ウォーターランドで、地元の若者たちを雇うことで、雇用促進した。
現在、この神代市の市長選挙が行われている。藍明守の衛星都市に加わり、これからも飛躍するための大事な首長選挙である。そのため、善くない者たちが跋扈しているのも確かだった。
学園理事長であり、AAAの理事でもあるポナパルトは自分の傘下の精鋭遊撃小隊を1つ組織し、今回の市長選挙に投入していた。やり過ぎかもしれないが、AAAが出なければいけない情報があったからである。
それは、ヘルメス残党の精製した新型麻薬を流通させようとするマフィアが市長選挙に協力している、というものである。
「天青雲祭までじゃないにしろ、このお祭り騒ぎで、そんな物騒な奴らが出てくるかね」
「おかしかねぇよ。藤原興業なんて言っても、極道のフロントなんだからよ。」
メインストリートで出ている屋台の一つからたこ焼きを買って、三人で食べる。
こういう時に食べすぎるのは決まって優雅である。しかし、ワイシャツと黒のスーツは汚さない。背丈と切れ長の瞳も相まって、優雅はヤクザに見える。ともすれば、総司はチンピラであり、神威は護衛されているお坊ちゃんか。
「去年、ゴローちゃんって言ってた奴。藤原悟郎って言ってな。俺の親父も、武藤の九首会も、今や信頼を寄せてる組長よ。化け物みたいな剛腕だったろ?」
「力だけじゃなくて困ったから、よく覚えている」
去年の天青雲祭の闘技会、優雅が神威を破った後の決勝戦の相手が藤原悟郎だった。ただのヤクザとは思えない力と、体力を備えた不可思議な相手だった。
今まで並み居るファイターを一撃で吹っ飛ばした寸勁が通用せず、むしろコピーされた。
「伊達洸耶とも違う強さを備えた相手というのを、ああも見せつけられるとは」
クールな優雅が苦虫を噛み潰したよう顔をしている。一応、勝ちはしたが、薄氷の勝利だった。
「思い出したら、口が火傷する」
「ビール注文すっか」
この選挙の騒動で、屋台は縁日の如し。昼間からビールを売っているようなところもある。
「こら、仕事中」
「酔えもしない液体はいらん。炭酸にしろ。」
「おう」
学園を卒業してまだ1ヶ月ぐらいしか経っていない。ポナパルト理事からAAAでのチームを組めと言われ、これが初めての仕事だ。
神威と優雅には距離感はあるが、総司が間に挟まれば何も問題は無い。優雅はこれでもフレンドリーになったほうだ。
建前としては神威が隊長で、二名の新人を統率していることになるらしい。
たこ焼きの口直しに炭酸水を飲み干し、お約束にゲップする。
「市長選挙に新型麻薬とは考えにくいが?」
「そうは言ってもな。この選挙は、藤原興業がバックアップしている候補と連邦や一部富裕層が支援している候補の、実質的な二極戦よ。その大陸マフィアってのは、藤原興業のシマを奪いたいっていうのが本音よ。」
総司は裏の世界の話に詳しい。藤原悟郎と顔見知りだったし、彼にしか知らないことも多いのであろう。
「この街がよほど魅力的か」
「本命は武藤、次いで藍明守だろな」
優雅は地政学的な視点はない。だから、敵と思しき勢力の目的は覚えておいて損はない。
「まぁ、その中で新型麻薬が何で絡むのか分からんけどな。こういうのは知ってそうな奴に聞くしかない。」
総司からしてみても市長選挙と麻薬の絡まり方が分からないらしい。神威も話半分でしか、任務の目的は聞いてなかった。
「悪ぃんだけどさー、最近新しいの見かけてねぇ?」
総司はフレンドリーに注射のジェスチャーを取りながら、裏路地で屯する強面二人組に話しかけに行く。その二人組はどちらもスキンヘッドで、総司の声かけに生気がなく顔色の悪い目線を向けてきた。
「そりゃ、こういうやつか?」
一方が黒い固形の薬をかみ砕く。
「は、は、ははははハハハ!!」
スキンヘッドは哄笑し、見る見る内に着ていた服を破り姿を禍々しく変えていった。
「ひゃは、ヒャーハッハッハハ!!」
もう一方も狂った笑いと共に異形へと姿を変えた。
「こういうのは想像してなかったなあ」
総司は現れた二体の化け物に物怖じはしていないが、流石に相手が悪いとして後ろの2人に交代する。
「こういう奴らならば」
「存分に力を振るえる!」
こういう手合いならば優雅も神威も適任である。彼らのライザードシステムが起動する!
『変身!』
同時に変身した黒と白のライザードが異形へと立ち向かう。
ただ残された総司はお休みというわけにはいかなかった。
「おっとこっちは雑魚戦闘員ってところか?」
どうやって呼び集めたのか知らないが、総司の後ろにはチンピラが集団でやってきていた。バットを持つ者、警棒を持つ者、ナイフを持つ者。武器は様々だ。
どんな武器を持とうが、総司の雷撃は健在。触れる者全てを痺れさせる。
「おーっと、私闘は見咎めるぞ~?」
と、ふざけたことを言いながら、チンピラたちの後方から声が上がる。
「ぎゃあ!」
「何しやがっ!?」
チンピラをなぎ倒して現れたのは、スーツとワイシャツをばっちり決めている持明院秋人と、眼帯をやめてメガネにした近藤緋芽であった。
「反抗したらしょっ引くぞ。
「んだよ、お前ら、おまわりさんかよ」
「AAAにも用事は無い。むしろ逮捕して、動けなくなる方が俺たちも嬉しい。」
「抜かせよ!」
秋人と緋芽は公僕になっていた。正式には連邦情報局の局員。いわばスパイである。学園にいるスカウトマンの誘いを受け、2人は連邦の犬になったのである。
ただ、ここに秘密警察がいるということは、この一件、相当闇が深いことでもある。マフィアと組んでいるのが連邦政治家も含まれるのだから。
ともあれ、彼らは卒業した後も、幾度となく顔を合わせる。時には敵として、時には共闘して。それらは誰も欠けることのない要素であったが、私たちは一人、地に堕ちた者を忘れている。
ゼフィス・エントクロマイヤー。彼の本当の物語は、遠くない話、HEROsにて語るとしよう。
ELEMENT 赤王五条 @gojo_sekiou
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