第二十四話 仕事量

「ねえ、笹橋さん」

窓拭きが終わり、そのあとに言い渡された文化祭で使われる棚などの制作。


「なんだい、焼きリンゴくん」


「焼きリンゴじゃないです。せめて焼き梨にしてください」

自分が最初に決められた仕事とは全く違う、いわば雑用。


「いやいや、焼き梨だっておかしいよ。まあ、いいや。で、なにか用かい」


「なんで、僕、こんな仕事しかしていないんですか。雑用じゃないですか」

本来の仕事である物資の運搬や購入が僕の仕事であるのだが。


「だって君、いまやることないじゃないか」


「いや、まあそうですけど」

いま、思えば僕が受けた仕事は文化祭当日に行う仕事だ。


「君みたいな器用貧乏とはいかないものの、本当に微妙なパラメータしかない君を私が救い出したのだよ。感謝してね」

ひどい言い草である。なにが、微妙なパラメータだ。


「で、そんなダメダメな僕を貴女はどうやって救い出したのですか」


「えっ、気付いていないのっ。はあ、だから君はダメダメな奴なんだよ」


「君は心が弱い。誰が何を言おうと君は心が弱い。そんな君が文化祭の準備期間の時になにもせずにずっと待機命令を出されていたら、君は罪悪感に見舞われるだろう。他の人は一生懸命にしているのに自分はなにもせず、ただぼーっと眺めていただけ。もう一度、言おう。君は心がものすごく弱い。そんな君は彼らを見てこう思う。こんな自分いらないよね。ああ、主よ、私の愚行をお許しください、と。そして君は後者の屋上から飛び立つんだ」

笹橋は満面の笑みを浮かべ、文化祭についての書類を眺めながら、語っていった。


「ちょっ、ちょっと待ってください。え、僕、最終的に死ぬんですか」


「もちろんだよ。なんせ、君は心がよわ、」

「そこまで弱くないはずです。もっと強靭だと自覚しています」


「いやいやいや、強靭、そんなわけがないよ。君は自分のことを過大評価しすぎだね」

えー。


「そんな理由で僕に雑用を押し付けていたんですか」


「うん、もちろんだとも。まあ、雑用をしてくれる人の数が足りなかった。という理由もあるけどね」

なるほど、彼女から見た僕はなにかしていないと罪悪感で精神が崩壊してしまう人間で、人数の足りない雑用を僕に押し付ければ人員の補給もでき、僕の心も壊れない、と。ほんとうに彼女に僕はどう、思われているのだろうか。中々にひどいイメージだ。


「まだ、ほかに残っているんですか、雑用」


「うん。というか、日に日に、その日のうちに終わらして行かなきゃ全て終わらないと思うなあ」

どれほど僕たち雑用に仕事を押し付けるのだろうか。


「それって、多すぎませんか。雑用にしては」

珍しく、配分ミスをしたのだろうか。


「まあ、今回は計画自体が大きいからね、他のクラスから人を借りたいくらいなんだけど。どこも忙しくて。衣装のデザイン、そして作成。内装のデコレーション作りにも人を回して。そして、極めつけに料理をする人たちの育成と資格取得でほとんどでいなくてね。それもどこもまだ人が足りないときた。だから、その分君たちの仕事も増えるんだよ。ちなみに買い出しは君一人、プラスして誰か一人連れて行っていい、というくらいだから余計なものは買わないでくれよ」

なるほど、彼女も全力を尽くしてここまで普通に見せていたのだ。本当はとんでもなく、大量の仕事があるというのに分配をうまくして一人一人の仕事の負担、精神状態を予測しての行動。

やはり、彼女は天才だ。


「ごめんね、そこまで多かったかい。あまり、そっちに目を向けられてなくて、ね」


「いえ、大丈夫です。貴女の言う仕事はこなしておきます。そんな話されて、ここで真面目にやってないと、後味が悪くなるので」


「うん、ありがとうね」


「ちなみに誰が一番多いのですか」


「えー、それ聞くの。まあ、答えるけど」

そこまで、嫌な質問だとは思わなかった。


「儚矢君だよ。どれくらいかっていうと君のこれから行う仕事全ての約五倍だね」

周りを見渡す。しかし、彼の姿は見受けられない。


「あー、彼はいまコンピュータールームにこもっていてね。先生方に見せる資料の作成。当日のタイムテーブル作成と人員の入れ替えをつくっていてね。もう、あと三日は授業以外ではこの教室では見ないと思うよ」


「ちなみに、私は現場監督だからほとんど確立した仕事がないんだよ。やったねっ」

ああ、わかっていた。この人は天才であり、またロクでなしなのだと。ひどい、酷すぎる。


「本当に文化祭は成功するのか、僕はいま心配です」


「まあ、今回はほとんど賭けに近いからね。全てがうまくいくとは思わないけど、私は出来る限りやるよ」


「笹橋さんに休憩時間は」


「……」

笹橋は笑顔を作ったまま、固まる。

えっ、なに。もしかしてないのか。いや、彼女の性格からしたらそんなことはないはず、せめて無理やりでも作るはずだ。

でも、今の表情。


「、もしかして、どの時間でも遊びにいけるってことですか」


「……」

「そ、そんなこと、ないに決まっているよ。あはははは」

焦った様子で笹橋は言う。


「貴女、最低ですね」


「ひどっ、もう、君に休み時間なんか与えないからね」

ずっと、一生、雑用だっ。そう言い、彼女は足早に逃げていく。最低だ、彼女は。

だが、一生雑用は…。微妙に嫌な仕事だ。

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