第八話 海

為縛街にある唯一の高校、国立為縛高校の文化祭は食品を扱う所に関しては検査が必要だが何をしても自由、資金は学校側が出すという他の学校でもあまり見ないフリーダムさがあることで有名だ。

なので、その分行われる規模も大きく、例えば体育館全体を使ったお化け屋敷や、自分たちで一から作り上げた子供たち用のプレイランドをグラウンドの四分の一を占めて行われたり、巨大ケーキ作ってみた、とこんな企画が通るのかと疑問に思われるのだが一度も却下が降りてはいなく全て行われたらしい。全くとんでもない祭り事だ。


そんなわけで、この前の図書室の出来事でまだ出し物が決まっていないと思っていたのだがいつの間にやら、というかあの会話以前にもう何をするのか決められていた。僕は何のために呼ばれたのだろうか?


僕が何ら特別職に就いているのでもなく、級長や副級長などの人の上に立つ役割でもなく、クラスのまとめキャラでもない、ただの級長に厄介されている一生徒なのであって僕がいないところでやるな、とか偉そうに訴えれるほどの人間ではないので別にいいのだが、その分僕は焼きリンゴやら告白紛いなどと被害を被っているためせめて僕の存在価値を出して欲しい。


そして、今年の僕たち高校二年四組の出し物は喫茶店である。当然、うちの級長がただの喫茶店で済ませるはずがない。『喫茶店、海の家バージョン』である。ここ、為縛街は山の中である。たとえ、高台を作ったとしても見えるのはこの街と森、細い川ぐらいだろう。それならば、毎日こんな山の中に住んでいるのなら海のあるところへ行ってみたいと思ってしまうのは全国共通だろう。無論、可能だ。しかし、他の土地へ行くには多くの手続きが必要だと聞く。その理由としては都会へあまり上京させず街の過疎化を食い止めるのだとオタクの友人とは別の友人である綿引から聞いたことがある。今現在、日本は少子高齢化とともに田舎の過疎化も深刻化していき問題になっていると地理で中学の頃習った。


それは置いておいて、この喫茶店、通称『海喫茶』はある意味クラス内でも学校中でも人気を寄せていた。それはもちろん、海に行ったことのない人たちが多いこの学校ではそれはもう嬉しいだろう。ちなみに屋外についているプールもプールサイドを砂で埋めて海気分にするらしく生徒たちは興奮状態だった。これは事実かどうかわからないがこの高校に配置されているプールは意外と巨大なもののようで砂の費用が甚大にかかるだとか。

普通ならば九月に海紛いのことをするのは馬鹿の集まりと思われがちなのだが、この為縛街は九月になっても猛暑日が続き、ようやく冷えてくるのが十一月の半ばである。これでは、クリスマス時の雪が不安である。




「よく、こんな発想ありましたね、笹橋さん。というか、できていたのなら教えてくださいよ」

予算の管理をしているであろう笹橋の隣にかけて話しかける。


「ごめんごめん、うっかりしていたよ。まあ、君が来る前に儚矢はかなや君がすごい形相で『クラスメイトたちが、喫茶店にしないと暴れる、とか言ってきます』と伝えてきたのでね。急遽、決定したってわけさ」

冷静沈着で有名な儚矢はかなや君がすごい形相とは見てみたいものだがそれだけデモの威力が計り知れなかったのだろう。


「で、どうやってその発想に至ったんですか」


「そりゃあ、簡単だよ。今年の文化祭のスローガンが『青』と単純なものがきた。単純なものこそ、難しいというのに。まあ、そこから青といったらという感じで考えていけばたどり着いたんだよ」

それに、一度本物の海へは行ってみたいからね。と、付け足して言った。


「海、行きたいんですか」


「そりゃねえ、こんな緑いっぱいのところなら他の色いっぱいの景色も見てみたいじゃん」


「上を見れば、今は空色でいっぱいですよ」


「残念だけど、今上を向いたらすべて茶色だよ」

笹橋は、分かってないなあと表すかのようにやれやれと手を振った。


「料理はどうするんですか」


「誰でも作れる簡単なものにするさ、あとはアイスクリーム等は学校側が用意してくれるみたい。どんなアイスが用意されるか不安だけど」

笹橋はそう言いながら、海喫茶の暫定メニュー表を見せてくれた。たしかに、一番下の欄のアイスは不明、とされていた。


「あっ、いいこと思いついた。今度の冬休み、一緒に海行こうよ」


「貴女は馬鹿ですか。どこに冬に海に行こうとする人がいるんですか。体が冷えてそれどころじゃないでしょうよ」

この人は本当に高校生なのか、たまに心配になってくる。


「じゃあ、冬休みじゃなかったら連れて行ってくれるのかい」


「いえ、行くとしても男友達とだけです」

綿引とか、開野とかとな。


「なに、ナンパでもしに行くの」


「行きません。というか海に行くのは友達か好きな人とやってください」


「私は君のこと、好きだよ」

笹橋はさっきの楽観的な表情から打って変わって真剣に言った。


「えっ、ちょっと」


「ふふ、冗談だよ、冗談。真に受けるなよ」


「思春期の男子にそんなこと言わないでください。ドキッとしたじゃないですか」


初心うぶだなあ、焼きリンゴ君も」


「黙ってください」


「まあまあ、落ち着けよ。君にはそうだな、物資の運搬を飾りをしてもらいたい、いいかな」


「いいですよ、別に。だけどこのメロンソーダ一杯、残しておいてくださいよ」


「この学校の近くにあるコンビニや自販機で買えるだろ」


「この前コンビニは潰れました」


「そうだな、じゃあ自販機で買いなさい。まあ、覚えていたら残しておくよ」

それから、宣伝等をヨロシク、会話は君の十八番なんだろと笹橋は僕の背中を一発バシッと入れてから、飾り付け班のリーダーらしきクラスメイトの元へ向かっていった。

ここで、コミュニケーション能力が無駄となったな。

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