第七話 特技
「では、まず最初に自己紹介をしてもらいます。ああ、趣味などはいりません、ただ自分の名前と特技を答えてください。ともに暮らすクラスメイトたちに有益な情報だけ流しなさい。さすれば、この教室はチームワークに長けた他よりも良いクラスになれます。ではまず私から。私の名前は片滌秀雄、特技は人に指示することです」
代理の担任、改め片滌先生はガラッと扉を勢いよく開けたかと思うと教卓へ上がりながらハリのある声でそう言った。
「そうだな、左端の列から順に言っていけ。ほら、時は金なりだ、さっさと言え」
さっきとは打って変わった表情と声で左端一番前の生徒を脅している。
はいっ、と緊張しながらも名前と特技のものづくりと言っていく。
「そうか、ものづくりは地味ながらも繊細でとてつもなく集中力がいる仕事だ。並大抵ではうまくできない」
いきなりお前は馬鹿だ、それが何になる、や、そんな行為なんぞ誰でもできる、などと人を馬鹿にする態度をとるのかと思えたがそうではなく意外にも褒めていた。
「君のそれは将来破壊工作のための機械作りに向いているのかもしれない、いや絶的にそうだ」
あっ、はい。と、座る生徒を尻目に片滌先生を訝しむ。なんで、破壊工作に用いられるんだよ、というか絶的ってなに?
それからも、順番に生徒が特技を言っていき、それに対して先生が、暗殺に向いているだの、毒薬作りに向いているだの、君は隠蔽工作のエリートになれるだの、と言って生徒を褒めているのかわからないが話は進んでいった。
やがて、僕の番になり僕は立ち上がった。しかし、何にも言う内容を考えられていない。
「僕の名前は月見里灼梨で、特技は」
というところで言葉が詰まる。この頃、人をからかったり、からかわれたりしかしていないので『人をからかうことです』と言ってもいいが『それは、最も暗殺に向いていない』とかで後から目をつけられる気がする。
「特技は、誰とでも話せることです」
「そうか、コミュニケーション能力が高いとなると、敵の情報を獲得できるスパイだろうな」
と言っている。となりで『あなた、今日私と話すときどもってたでしょ』と言ってくるが無視しながらありがとうございますと答えて座る。
そのあとも続きとなりの葭原の番となった。
「葭原凛です。特技は掃除です」
と言ってすぐに座る。対する先生はほう、と呟いていた。彼の目は今までよりも異様に見え、そして、どのような掃除が得意なんだ、と聞いてきた。
「色々です。窓拭き、箒がけ、ゴミの分別や出てきた虫を殺すのも得意です」
彼女は苦虫を潰すように、だけど虫のところだけは力強く答えた。それに先生は何を思ったか口を三日月のように開け、なにかを発しようした。ダメだ、それを今ここで言っては。
「どのような虫だ。ハエのような小さな虫か」
なにを言うのかはわからない。
「それとも毒クモのような恐ろしい虫か」
だけど、今ここで、この場所で言ってはならない。
「それか虫のようなうざったらしい、」
これが、影宮先生の言っていたもしもの場合で止めなければいけないことのことか。最初の一回から僕は止められなかったか。そう思い、顔を下に向ける。
「先生、そこまで詳しいことは後から聞いたらいいじゃないですか。時は金なりなんでしょ」
僕は、みんなは声のした方を向く。そこには笹橋が腕を組んで先生を目を細めて睨んでいた。
「ほう、俺に刃向かうか、だがまあいい。お前の名は」
「私は笹橋胡春。特技はプログラミングです」
「ほう、そうかプログラミングは新たなウイルスも作れるし、ハッキングもできる。暗殺にとっては必要不可欠だな。お前に免じて今日は引こう。そして、興も冷めた。授業に移る。古文の教科書の73を開けろ」
そして、生徒たちもいきなりの授業開始に驚きつつ、ノートにペンを走らせる。
視線を感じたので後ろ振り向くと笹橋がこちらに向かってピースをして笑っていた。さすがは影宮先生。頼りない僕の他にもやはり抑止役を作っていたか。
僕もみんな同様ノートを開き授業の内容をノートにとろうと思う。だが、ノートの右上にまずはメモを残してから。
『さすが、笹橋』、と。
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「で、どこまで知っていたんですか、貴女は」
「いんや、お姉さんは何にも知らないぜ」
あの後、公民の授業は初授業にもかかわらず滞りなく進み公民の授業は終わった。その後の授業は前と同じ教師だったのでなんの変化も感じずに四限が過ぎ、昼休みとなった。
「えっ、じゃなんであのとき」
「そりゃあ、私はなんてったって級長だからね。困っている生徒がいたら手を差し伸べるのが当たり前だよ」
「普通の級長でもそこまではしませんよ。だけど、よく貴女の席から見えましたね、葭原さんの表情」
その普通を見返りを求めず、また簡単にこなす彼女をやはり尊敬する。いつもこんなのだったらどれほど良かったか。
「えっ、私は葭原さんの表情は見てないよ。見てたのは君の表情だよ。凄い悔やんでいる様子だったからさ」
「そんな風に見えてましたか。よくわかりましたね」
「そりゃそうさ、なんてったって私はお姉ちゃんだからね」
「さっき、無視しましたけど、まだ続いていたんですかその設定」
「ひどいなあ、無視なんて」
「ですけど、やっぱりありがとうございました。おかげで助かりました」
「いいよ別に。だけどひとつだけ言っておくよ」
「なんですか」
笹橋が真剣な表情をしてこちらを向いていたので体を傾けて聞く体勢に入る。
「もうあと九分で次の授業始まっちゃうよ。いいの、ご飯の量、全然減ってないけど」
「へ?」
即座に自分の売店で買った弁当と彼女の母親が作ったのか手作り弁当を見比べる。彼女の方はもうご飯粒一つ残らず消えていて、自分のはまだ三割増ぐらいしか減っていなかった。そして時計を見る。確かに授業は一時丁度に始まるにして今は五十一分と記されていった。
「やばいじゃないですか」
「そうだよ、だから頑張れー、ちょっとは応援しとくよ」
彼女は授業の用意をしてくるよ、と僕に伝えながらながら廊下に並んでいるロッカーの方へ言った。
そんな彼女に構う時間などなく、僕はせめて普通に応援してよ、なんでちょっとなんだよ、と愚痴をこぼしながら弁当を口に流し込むように食べた。
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