真27話 別れは突然やってくる
ダッダッダッダッダ──────
息を切らし、ひたすら階段を登る。一分一秒でも早く上でふんぞり返っている悪しき王の元へと急ぐ。手にした黄色いバナナの皮を上に投げ、着地した場所まで勝手に足が進む。そしていつもの様に転がる少し前に再び投げ、そのままの勢いでまた走る。それを幾度か繰り返す。たまにミスって転んでしまうも、痛みは感じず、また立ち上がっては投げて走る。私のこの力はあの娘を助けるためにあったはずなのに、どうして届かなかったのか。紆余曲折はあったものの、モグの言う最短ルート(この階段はたまたま)でここまで頑張って来たはずなのに……。
「なんで……なんでよ……!」
私があの時ちゃんと見ておけば。今こうしてあの娘の元へたどり着きそう……だったはずなのに……!
グラッ
「ッ!」
また投げるのを忘れたことで、皮を投げた場所でツルッと転んだ。しかも運悪く少し前に投げた地点まで戻ってしまう。終わりが見えそうになるといつもこうだ。日本にいた頃も誰かを助けようとする思いだけが先走るがあまり、結果的に自分もアクシデントに巻き込まれる。
「ミーヤ……ちゃん……!」
身体中あざだらけになりながらも、私は階段を上り続けた。するとここでようやくモグが私に追いつく。
「シーちゃん! 待って!」
「……ごめんモグ、先に行く。皆をお願い!」
「あ、ちょっと!」
私はモグにそう言うと、バナナの皮を前方に思いきりぶん投げた。
◇
──────「……まだか。それとも臆して逃げたか。ふん。実につまらん」
ゼウスは一人、玉座に頬杖を突きながら呟いた。……シエテ・ペンドラゴン。どこの誰かは不明だが、あのアーサが聖剣を渡したということは何かあるのだろう。
「……久しぶりだな。この高揚感。一対何百年ぶりだろうか。ヘラと戦った時以来、誰も我を上回る強い者が現れぬままここまで来てしまった……誰も……」
ゼウスはおもむろに立ち上がり「こい」と一言。すると目の前に黒く禍々しい渦が発生し、そこから三人のフードを被った人物が跪きながら現れる。
「……速やかに排除せよ」
『御意』
サッ──
「まずは三人……」
────「ッ!」
私が皮を投げようと腕を振り上げたその時、人の気配を感じた私は投げるのをやめて聖剣を抜刀した。すると、
「へえ。私の気配を感じ取れるくらいには成長したようね、シエテ・ペンドラゴン」
「ッ! あなたたちは!」
私が目を大きくする視線の先に立っていたのは、ヴィネア、ジャック……そしてもう一人、男の姿がそこにあった。ヴィネアとジャックについては言うまでもないが、奥にいるあの男を私は知らな────いや、知っている。つまりあれが本物の──
「おい! よくも騙してくれたな! あの時の恨み、晴らさせてもらう!」
逢って早々私に向かって声を上げるジャック。そう言えば以前、ミネルバの城へ行った際にたまたま捕らえた女性をモグがスキルで奥にいる男の姿にして撤退させたことがあった。今彼女が怒っているのは間違いなくそのことだ。たぶん、少ししてスキルの効果が切れたのだろう。それはそうとして、問題はその男である。そしてもう一つ、
「三対一は、ちょっとまずいわね……」
私が警戒していると、後ろから声が、
「そこまでだ!」
「シーちゃん早すぎ!」
「ッ! モグ! モルトさん!」
追いついた二人が現れ、ほんの少し警戒を緩めた。
「役者がそろったか」
ズ……ッ!
奥の男はそう言うと突然、右腕を自分の胸に突っ込むと、大量の血吹雪と共に金色の剣を取り出した。
「ああ…………。我が名は『ジーク』。我が王から授かりしこの《
『そうはさせるか!』
ジーク、ネヴィア、ジャックを相手に私の前に出て来たのは、モグが認める実力の持ち主──モルト、デュラン、アイギスの三騎士だった。
「モルトさん! それにお二人も!」
「シエテ殿、ここは私たちにお任せください。一度死んだようなものです。それに貴女に忠誠を誓うと言ったではないですか。選ばれたのであれば、貴女は貴女のやるべきことを果たして下さい! 道は切り開きますので……!」
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………ッ!
モルトが紅羅煉砥を振り下ろし、竜巻を発生させると、「今です!」と私に伝え、モグが私の手を握り、ジークたちの後ろへ一瞬で移動した。
「行かせるか!」
ジークが振り向く様に剣で薙ぎ払う……が、そこに私とモグの姿はなく、先へ急いだ。
「く……ッ! やってくれたなあああああああああああああああ……!」
禍々しい気配を辺りに広げ、まるで竜の様にその身体が大きくなる。
「まさか! 貴殿は黒竜族の生き残り……!?」
モルトがその変化した体躯に驚愕する。ネヴィア、ジャックもその事実を知らなかったのか、驚きと感銘を同時に得ている。
「食らえ──────」
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!
正に竜の息吹と言うべき、火炎弾が私に向かって迫って来る。すると咄嗟にモグが私の庇い、前に見た蜘蛛の足で私を覆った。
──────ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!
「モグ…………!」
立ち込める白い煙の中、私が足の隙間から見えたのは、後ろにドサッと倒れる彼女の姿だった。
「──────いやあああああああああああああああああああああああ…………!!」
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