真28話 神様との約束

 「モグ……モグ……!」


 私は震える手で虚ろな表情の彼女を抱き上げた。もし私があの攻撃を食らっていたら死んでいただろう。恐らくモグはギリギリで耐えると踏んで私を庇ったに違いない。ただその目論見は外れてしまったのだ。


 「……何で私を……」


 「……君が生きなきゃ……意味がないから……さ……」


 「え……?」


 モグが無理やり右手を伸ばし、私の頬に添える。そして優しい笑顔で答えた。


 


「──────……私が……君を呼んだんだ……」


 


 「………………へ?」


 「私には二つの人格がある。一つは賢者マリン。そしてもう一つは、君をここに呼んだあの神様さ」


 「……。そんなこと」


 「あはは…………そっか。もう、知ってたんだね。なら話が早いや」


 


 ……嘘。、私をこの世界に呼んだこともたまたま交通事故で死んだから。愛奈のことも、神様が思い出してほしかったからだと思っている。けどそれなら、神様が──モグが死んでいいってことにはならない! そんな世界なら……ここに来なきゃよかった……。


 


 「いいかい? よく聞いて。私の真の目的は君をこの世界の王にすることだ。それを彼女──神様としての人格が私を使って命令したんだ……ぐ……。だから……君は勝たなきゃいけない……マロー王を倒して、君が──この世界を救ってほしい……!」


 「ッ! …………………………そんなの──あたりまえじゃない!!」


 頬に触れたモグの手をギュッと握って頷く。すると、モグの身体が突然、光り始める。


 「モグ……! 身体が……」


 「……どうやらここまでみたいだね……。最後に君を守れてよかった。だから泣かないでくれよ? ……私は君の親友だか……ら……──────」


 


 シャラララ──────


 


 その言葉を最後に、モグは光の粒子となって消えていった。カランカランと手にしていた杖だけがそこに落ちる。


 「神様……ありがとう……」


 

 ググッ!


 

 俯く私がモグの杖を握ると、竜の姿となっているジークが次のブレスを吐き出そうとする。そして、


 「滅びよ……そして我にひれ伏せええええええええええ……!」


 


 ブラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 


 悠然と立つ私の目の前にジークのブレスが届き、爆炎に包まれる。その威力に耐え切れなかった階段がゴゴゴゴゴゴと音を立てて崩れ始める。


 『シエテ殿―!』


 モルトたちが私を呼ぶ。しかし崩れていく階段の上に私の姿はなく、後方に何とか残った階段の一部にモルトたちとジークたちがその場に踏ん張る。


 「ふん。他愛無い。所詮は剣を授かっただけの子娘。この竜の力の前には何人たりとも無力!」


 「──────?」


 「何ッ!?」


 上空から聞こえたその声に反応したジークが空を見上げた。そこには──


 


 「ッ! シエテ殿!」


 崩れ去った階段のちょうど上空に私は立っていた──────いや、浮いていた。


 「き、貴様、……!?」


 私は手にした聖剣を空に掲げると、私の……私だけのスキルを叫んだ。


 「【パーフェクト──────スキル……!】」


 


 キィィィィィィィィィィ──────!


 


 覆っていた黒い雲が私を中心に離れ、白く輝く澄み渡る空がその姿を現した。それと同時に私が浮かんでいられる理由も明らかとなる。


 「……そ、その姿は……まさか《神龍族アヴァロニス》の……ッ!?」


 頭には二本の太く金色に輝く角が生え、背中には純白の大きな翼。右手に聖剣、左手にはモグの杖が握られ、その姿は『神』を彷彿させる姿となっていた。


 「……モグ、ありがとう。あなたの力使わせてもらうわ!」


スッ!


 シエテが一瞬でジークに肉薄すると、その巨体に聖剣を振り下ろした。


 


 ザッン!


 


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダアアアアアア……!


 


 「私はこんなところで止まる訳にはいかない! あなたを倒して、前に進む!!」


 「ぐ……ほざけええええええ!」


 


 ヴァアアアアアアアアア……ヴァアアアアアアアアア……ヴァアアアアアアアアア……!


 


 スゥゥゥゥゥゥゥゥ──────シュン! …………ダアアアアアアアアアアアン……!!


 


 ジークが階段を壊したあのブレスを三発も撃って来る……が、その全てを私の後方──つまりマロー王が踏ん反り返っているであろう場所へ飛ばした。


 「なっ…………バカな!? 貴様、何を……」


 「簡単よ。。それだけよ!」


 だが後ろに飛ばしたことで状況は悪化。城の上部が破壊され、シエテの前にかの王がその姿を現した。するとマロー王が憮然とした様子で私を見る。


 「……あんたが『ゼウス・マロー』」


 「貴様がシエテ・ペンドラゴンか」


 双方がにらみ合う中、先ほど攻撃を弾かれてしまったジークがマロー王に謝罪する。


 「王よ! わたくしの不手際でご迷惑をおかけしました。あの者の始末をぜひ、わたくしめに──」


 「もうよい。お前は用済みだ。そこの二人も」


 アイギスとデュランが戦っていたネヴィア、ジャックがその言葉に驚くと、「そんな……」と声を合わせて命乞いし始める。しかし、


 「と言ったはずだ。失せろ。ふんッ!」


 


 グォオオ──────ヴン!


 


 ジーク、ネヴィア、ジャックの三人の姿が一瞬にして闇に飲まれると、マロー王の右手から黒煙がシュ~っと抜けていった。一瞬の出来事にモルトたちが見えていなかったその状況を私は見えていた。


 「あの一瞬で何が……?」


 「……全部、燃えたわ。三人いっぺんに。たぶん、ミネルバの力よ。やっぱり吸収されたんだわ……」


 『なッ……』


 私が説明したその事実にモルトたちが啞然とする。空中にいる私が三人のいるところへ移動スキルでワープすると、マロー王を警戒しながら伝えた。


 「モルトたちはここから離れて! 危険すぎる」


 「ではせめてこれを!」


 モルトが紅羅煉砥を私に渡す。私は一瞬躊躇したが、この魔剣にも役割があると考え、預かることにした。


 「後で絶対返す! あなたのお母さんの形見だもの」


 「ええもちろん。返す為に勝ってきて下さい。ふ。お願いですよ」


 「ッ! ……言う様になったじゃん。あなたの笑顔、とても素敵よ。じゃあ、行ってくる」


 「頼みます」


 背中に紅羅煉砥を背負い、超スピードで空中を蹴り、遂にたどり着いた城の天辺へ降り立つと、破壊された外壁からスタスタとゆっくり近づき、最後の敵と対面した。


 「さあ、始めようか。神と神の戦いを」


 「神と神ですって……?」


 「あの子娘ミーヤというガキは神龍族の血を持っていてなあ……。我が力にしただけだ。ああ、ついでに火炎の龍王の力もなあ」


 「じゃああなたも私と同じ力をもってるってことかしら?」


 「いや、


 マロー王が背中から漆黒に包まれた翼を広げると、狂気に満ちた表情で嗤いこういった。


 


 「──────われが《世界》だ──────」


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