真26話 伝説の地 アヴァロン

 『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 「さぁて……この人数。中々にやっかいだねぇ……」


 シエテたちを例の場所まで飛ばしたモグは、一致団結した持たざる者たちを相手に苦戦を強いられていた。流石は【円卓の騎士団】に同行を許可されたモードレットの部下達。いわゆるエリートな兵士たちを相手に殺傷能力の高いスキルを使いたいところではあったが、シエテから「気絶させるくらいに抑える事!」と言われているため、こちらは手出ししづらい。それだけならばそこまで脅威ではなかったのだが、モードレット直属の部下である『アイギス』と『デュラン』、二人のコンビネーションがモグの精神をジワジワと削っていた。


 「はっ!」


 ズズズズン!


 「せいっ!」


 ゴン! カーン!


 「おっと危ない!」


 身の丈よりも長く、鋼鉄の様に硬い素材で出来た長槍を巧みに操るデュラン。そして数多の攻撃にもビクともせず、モグのスキルを全く寄せ付けない絶対防御の盾を持つアイギス。彼女らの攻防を何とかしのぎつつ、他の兵士たちを気絶させていくモグ……だったが、ここでデュランが動いた。


 「はああああああああああああああああああああああああああああ!」


 デュランが騎士特有のスキル【騎士道精神】で全身に力を溜める。シエテやモグの様にスキルの能力を外に出すことが出来る者は少ないが、騎士や剣闘士などは自身にのみ付与出来る固有スキルを持つ。そのスキルは鍛錬によって精度が上がり、最終的にはシエテの様に高密度の空気砲を放つことが出来る者もいると言われている。


 「貫け────【ロンゴミ=アント】…………!!」


 

 ギュギュギュギュギュイイイイイイイイイイイイイイン……!


 

 「くっ……うああああああ……!」


周りの木々をその高速回転する槍によって巻き込まれながらモグに向かうと、そのままの勢いで吹っ飛ばした。この攻撃に思わずモグが苦悶の表情を浮かべる。何とか致命傷は避けられたものの、かなりのダメージを負った。


 「う……く……」


 杖を前に振り、モグが反撃する。シエテには悪いが気絶以上のスキルをデュランに放つ。


 「穿て…………【破竜の息吹ドラゴン・ブレス】…………!!」


 ゴオアアアアアアアアアアアアアアアアア……!


 杖の先が赤く光るとそこから赤い稲妻を帯びた竜が飛び出し、目にも止まらぬ速さでデュランに攻撃する──────が、


 「展開せよ────【ガラ=ハド】……!!」


 ゴオオオオオオオオオオ──────…………!


 モグの渾身のスキルを先ほどデュランが使った【騎士道精神】を今度はアイギスが使い、その一撃を受け止めた。無論、盾には傷一つ付いていない。


 「ありゃりゃ……これ止められるか……」


 万事休すのモグ。このピンチをどう乗り切るのか。



         ◇



 ──────「ヴィア!? 何でここに?」


 一方、モグによって飛ばされたシエテとモルト。二人を待っていたのは、モグが戦っている森にいるはずのヴィヴィアンだった。


 「ん~……簡単に説明すると、向こうにいる俺は分身で、今君たちの目の前にいるのが本物ってことかな?」


 「じゃあ!?」


 「それはその……これが俺の本来の姿だから?」


 「本来の……ってあなた人間じゃなかったの?」


 「あれ? 言ってなかったっけ? 俺は精霊なのさ」


 「聞いたことがあります……確か、竜族が繁栄を築く以前にいた者達……しかし、何年か前に滅んだと聞きましたが?」


 モルトが答える。その問いにヴィヴィアンは、


 「あーそれ嘘。この湖の先が《アヴァロン》だから」


 「アヴァロン?」


 私が頭に「?」を浮かべると、その隣でモルトが目を見開いて驚いている。


 「え……そんなに有名な所なの?」


 「なっ!? シエテ殿、アヴァロンを知らないのですか!? そんな……アヴァロンを知らない人がこの世にいるなんて……」


 「まあシエテちゃんだしね~。物語に出たくらいだし」


 ヴィヴィアンの発した意味深な言葉に私はここぞとばかりに彼女に迫る。


 「ッ? 今、日本って言った?」


 「ん? ああ、そっか。モルトちゃんには言わない方が良かったね」


 「そこもそうだけど、ヴィアは日本を何で知ってるの? というか、貴女は何者?」


 私はいざとなれば剣を抜いて戦う仕草をする。その様子にヴィアは両手を上げて「ちょ、まって! 待ってって!」と慌てた様子を見せたため、腕を組んで様子を窺った。


 「……で?」


 「はあ……。この湖は精霊が何百年も守っていて、この先──湖の中を抜けると、アヴァロンがある。アヴァロンとは、全ての者が悠久の街を行き交う伝説の場所さ。日本を知っているのはアヴァロンに君以外の日本人がいたからさ。この世界ではアヴァロンは噂話とかの類で、実際に見た者はいない。というか、戻れないんだ」


 「戻れない?」


 「そ。言わば一方通行。だから実際に行った奴は多いけど、戻れないからそのまま行方不明扱いになるケースが多いんだ」


 「え……そんな場所に今から行くの? 私達」


 「ああ、いや! 君たちが行くのはアヴァロンじゃないよ」


 「どういうこと? アヴァロンに繋がっているんじゃないの?」


 「繋がっているのはアヴァロンだけじゃないってこと」


 ヴィアはそう言うと、湖に手をかざした。するとゆっくりと渦が発生し、底が見えて来る。


 「さ、行っておいで。聖なる剣を持つ者よ、魔の剣を持つ者よ。君達がかの王を討ち、この世界に平和が訪れることを願って──────【開闢アヴァロストディル】……!」


 ヴィアのスキルと共に、私とモルトの身体が宙に浮かぶと、そのまま渦へと落ちていった。


 「きゃああああああああ!」


 「うおああああああああ!」


 「頼んだよ……二人……」



        ◇



 ──────「そこっ!」


 


 ──────────……ドーン!


 


 シエテとモルトが湖に落ちていったその頃、モグは依然、ピンチの状況だった。何より、


 「貫け! やああああああああ!」


 ズズズズズズズズドーン!


 デュランの放つ【ロンゴミ=アント】を受けつつ、攻撃を繰り出すも、アイギスの【ガラ=ハド】による完全防御。この二人以外は何とか戦闘不能に追い込んだものの、厄介な相手だけが残ってしまった。


 「くっ……ヴィヴィアン、まだか……!」


 小声で弟子に指示していた行動を待つモグ。すると──


 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 「そこを退けええええええええええええええ!」


 スカートの先を押さえ、モグの頭上から私とモルトが落下する。その声にぱあっと表情が明るくなったモグが私達を地面スレスレで止めた。いつかお父さんが見ていたハリウッド映画のワンシーンが頭を過ぎった。


 「モグ……グッジョブ……」


 「か、感謝する……」


 ドサッ


 『隊長!』


 上空から現れた上官の姿にデュランとアイギスが武器を捨て、モルトの側に寄って来る。どうやら魔剣のスキルを掛けた本人が正気に戻ったことで、効果が切れたのだろう。ホッとするモグだったが、事態は一変する。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──────


 突然、空が唸り声をあげると、それまで晴れていた天気が曇り始めた。そして、


 『待ちくたびれた。よもや、こんなにも時間がかかるとはなぁ。さっさと我の元に来ぬか。ほれ、一直線の階段を用意してやる』


 威圧感のある声が辺りに響くと、森を抜けた先に城へと延びた階段が現れた。モグがそこら辺に落ちていた石を階段に向かって投げると、カタッと音を立てて転げ落ちた。どうやら、本当にただの階段みたいだ。そして声の主が私に衝撃の真実を告げた。


 


 『──────ああそうだ。アーサの娘、奴は…………すでに殺した』


 


 「──────────────────ッ!」


 私は湧き上がる怒りを拳にグッと込めると、階段を駆け上がった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る