新第19話 コロシアム
「さて、ついた」
「ここが白龍族の国──《アポロン》……」
『ミネルバ』を出た私とモグは場所で言うとちょうど中央に位置する次の国、『アポロン』に訪れた。狙いはもちろん、鱗を回収すること。これまでに『ネプチューン』『アルテミス』『ミネルバ』の三つを聖剣と融合させることに成功した私は、ここ『アポロン』にて、マロー王がいる黒龍族の国を除いた四枚の鱗を入手するために、モグとここまで旅をして来た。けど、ここへ来て問題が発生する。それは──
「アポロンと決闘してもらう!」
「………………へ?」
「だから、アポロンとシエテちゃん、決闘する。すぐに」
「ななな何でそんなことになるんですか? その……私はアポロンさんと戦いに来た訳じゃなくてですね……」
「知ってる。だから戦う。真剣勝負」
「だからそう言う──」
「いいじゃん、シーちゃん。戦ってみよう。なに、アポロンも君を本気で殺し合いの場に参加させたい訳じゃないから」
「殺し合いの場? え、物騒じゃん!」
「別名『コロシアム』。普段はここにしか生息していない大型の猛獣と剣闘士が戦う場でもあるんだ」
「剣闘士……?」
「ん~……。あ! 現物を見た方が早いかな? アポロン、次の試合は何時だい?」
「ん、五分くらいのはず」
「じゃあ早速、見に行こう」
「お、おー?」
◇
と言う訳で私達は、アポロンがよく見に来るコロシアムを一望できるポイントまでやって来た。──と、そろそろ始まる様子……。
「──さあ! 始まりました。コロシアム! 今回の対戦相手は何とあの伝説の怪魚『ヒラファ・ティフロン』をその大あごで捕らえた猛獣、『ベス・ティア』の登場です!」
グガガアアアアアアア!
『アポロン』の海で取れる怪魚を一撃で捕らえ、骨ごと貪る猛獣。身体は動物園にいるライオンの様に気高く、その顔はまさに野獣と言える獰猛な牙を生やした表情。しかし、その体躯はライオンとは比べ物にならない程大きく、私なんか一瞬で噛み殺されそうな生き物だった。
「さて今回、こいつに挑戦するのは~──────『テオン』だあ!」
『おおおおおおおお!!』
歓声が沸き起こる中、登場したのは、私とさほど身長が変わらないくらいの男の人だった。腕を上げて、観客に手を振る先には、彼には似つかわしくない、大剣を軽々と左右に振っていた。……見た目と違い、軽いのだろうか。
……と、どうでもいい考えを頭に巡らせていると、試合が開始された。
カーン!
「さあ! 今、開始のゴングが鳴り響いた! チャレンジャー、テオンはまたも勝ってしまうのか!?」
実況がマイクを口元に近づけ、アナウンスすると、挑戦者のテオンが動き始めた。
タッタッタッタと、猛獣めがけて足を動かすと、先に攻撃を仕掛けて来たのは猛獣側だった。
ガアアアアアアアア!
強烈な一撃が彼めがけて飛んでくると、それを軽々と跳躍で躱した。そして上から叩きつける様に手にした大剣を猛獣に振り下ろした。
「はあああああ!」
ドオオオオオオオオオ!
硬い羽毛で覆われた獣にはあまり効果がなかったのか、大ダメージとはならなかった。それでも彼は同じ様に攻撃を躱し、剣を叩きつける。
「おおーっと! テオン、攻撃があまり通ってない様子だが、どうするつもりだあー!?」
実況が観客にも分かる様に試合の解説をすると、彼がその反応を感じたのか、戦法を変える。
「モードドラゴンキラー!」
テオンが叫ぶと、大剣が変形し、両刃だった剣が包丁の形に変化し、さらに刃先がパン切ナイフの様にギザギザした姿になる。これには私も思わず、
「おお……すごい……」
「あれがかれのスキルかな? 『モード』の一種みたいだね」
「『モード』?」
私がモグの解説を聞く。
「シーちゃんの『パーフェクト』と違って、『モード』という固有スキルが彼の力。モードは手にした、または身体の一部を何かに変化させるスキルで、彼の場合は『武器を変化出来るスキル』と言うことさ」
「へえ~……なるほど……」
「シーちゃんも使おうと思えば出るとは思うけど、オススメはしないかな」
「え? 何で?」
「彼は解除出来るけど、シーちゃんは解除もランダムだから」
「あーね……」
と、そんな会話をしていると、彼が最後の一撃を入れるところだった。
「おりゃあああああああああ!」
ギギギギギギギ──ガガガガガガ!!
『おおおおおおおお!!』
歓声が再び沸き起こると、猛獣の上でガッツポーズを決めている彼の姿が見えた。実況がコロシアムの閉幕のアナウンスをし始めた。
「──とまあ、こんな感じさ。どうだった、シーちゃん?」
「うん。見ている分には楽しめた。……見ている分には」
「あはは。とりあえずどんなものかだけでもわかってもらえただけ、こっちは満足したさ。どの道決闘は明日だから、今日は観光でもしよう」
「うう……お腹が……」
私の胃がストレスでマッハになっていると、アポロンが私に声を掛ける。
「大丈夫。スキルはお互い使わない。剣だけ」
「え? そうなの? てっきり、スキルもありだと……」
「アポロンのスキル、強すぎ。シエテちゃん、死んじゃう」
「へ?」
「アポロンのスキル、時間経過。対象の生き物の時間を早める」
「時間を早める? でも、早めても何も変わらないんじゃ──」
すると、モグがヒソヒソと私の耳に追加情報を伝えた。
「アポロンは普通に強い、毒のスキルも使えてだね……」
「それは草!」
思わず女子高生に戻った私であった。
──と言う訳で迎えた翌日、昨日は観光で羽を伸ばし、ムカムカした気分も晴れた私は意気揚々と、コロシアムの控室で気持ちを落ち着かせていた。
「ふー……。大丈夫かな……今更だけどスキル無しで戦うのは初めてだしな……」
私が緊張でリラックス出来ずにいると、奥からモグが歩いてきた。
「やあシーちゃん。緊張は解れたかい?」
「ううん。全然。けど、モグが話しかけてくれたから少しだけ解れた」
「それは良かった。がんばってね」
「うん。行ってくる!」
私はゲートを進み、光が差すコロシアムの広場へと足を運んだ。
「よし! 絶対勝つぞ~!」
歓声で何も聞こえない中、私の目の前には小柄な彼女──アポロンは、仁王立ちでその身体の前に剣先を下に向けていた。まるでこの瞬間を待ち望んでいた様に。だからこそかもしれない。この試合の後、私が……私の『願い』を思い出すきっかけになるなんて、この時の私は知る由もなかった。
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