新第18話 大勝負!?
「いたぞ! あそこだ!」
ダダダダダダダダダダ──────
「走るよ!」
「もう走ってる~!」
ドタバタと足音が響き渡る天守閣へと続く道を走るシエテとモグ。再侵入する際、また捕まっては元も子もないということで、あえて見つかりに行き、後ろに付いてこさせる様にすれば進めるのでは? と考えたシエテはモグに提案すると即決され、今に至る。確かに、ずっと追いかけられている分、体力面には難が生じているものの、警戒せずに上へと突っ走れるこの作戦は、今の二人にとって好都合であった。ただ、前から襲ってくる人々に対しては容赦なくスキルや剣で薙ぎ払うしか、突破口はなく、この国の住民を殺めたくないシエテには、少々心苦しいことでもあった。
「ごめんなさい!」
ザシュ!
「大丈夫? シーちゃん」
「う、うん! 何とか……」
「……ごめんね、作戦を実行に移した私にも、前から来る敵に対してはどうしようもなくて」
「ううん。その分、後ろの人達を困惑させて進みやすくしてくれているモグに、私から言う事はないよ! ……人を斬るってことに少しだけ抵抗があったから……」
走りながら、私がモグに心境を語る。するとモグが、後ろにいる人達をスキルで吹っ飛ばすと、私に言う。
「ネヴィアのこと……?」
「ッ! ……うん」
「彼女ならまた会えるさ。マロー王を倒して、この世界に平和が訪れた時、みんなきっと仲良くやれるさ。それこそまた暴れたら私がけちょんけちょんにしてみせる!」
「うん。ちょっと深く考え過ぎていたかも。ミネルバさんとも、戦うかどうかはまだわからないし、戦わずに済む方法もきっと、あるよね」
「そういうこと! ほら、行くよ!」
着々と上に登っていく二人。……そして遂に、最後の階に到着すると、少し前まで宴会が行われていたあの部屋に彼女は待っていた。下から登って来る従者達にはモグがそこで待機し、シエテとミネルバ、二人だけにさせた。
「……あなたがミネルバさん?」
「……なら何だ? 私はあいつに用がある。あんたと話す気はないよ」
ミネルバが窓際の夜景が見られる場所に移動すると、そのまま床にドカッと座り込んだ。そして左手に掴んでいた酒瓶を右手のお猪口にトクトクトクトク──と注ぐと、そのまま飲み始めた。
「それで…………どんな手を使った?」
「……え?」
「だから、あの裏切り者の賢者はあんたの一体何に魅了されたんだと聞いている」
「……いやぁ……その……特に何も」
「ああぁ? んな訳ねぇだろ? あんたのその剣、確か『エクスカリバー』だろ? どうやって、あいつから盗ったんだ?」
「盗ってません! 第一これはアーサ王様から譲り受けたもので──」
「アーサだとぉ!? あいつ、まだ生きてやがったのか! ……ってことは……あんたはあたしの鱗でも取りに来たって訳?」
アーサ王という名前を耳にしたミネルバが思わず立ち上がる。そして豊満な胸の間から一枚の紅い鱗を取り出した。
「ッ! そうです! それをお譲りしてくれませんか?」
「……ったく。これはマローの旦那は大きく外れたな。ああ~いい、いい。こんなものあたしが持っていても対して役に立たないから」
「ッ! ありがとうございます! 早速剣と融合──」
「ただし! 条件がある」
「条件……?」
「あたしにとってこれは価値のない物だ。だが、欲しがる人間はごまんと見て来た。だからあんたにもこれをやる。……あたしと勝負しろ」
「勝負……? 何を──」
私が身構えていると、適当なテーブルの前に彼女は座り、上にあったものをブルドーザーの様にザザザ―と隣に押し流し、小さな空間を作った。そしてどこからか取り出した赤と黒、六面にそれぞれ絵柄の入った立方体をテーブルの上に置いた。そして、
「今からこのサイコロをそれぞれ二回ずつ振る。出た目の合計が大きい方が、この勝負の勝ちってことだ。簡単だろ?」
「分かりました」
「あ、そうそう。スキルは使うなよ。イカサマで勝ったって面白くないからな。これはあんたとあたしの運を試す勝負でもある」
「分かりました。でも一応、道具を確認させてください!」
「ああもちろん」
ミネルバがテーブルから少し離れ、私が確認しているところを眺める。私も道具を手に取り、道具に何か細工が施されていないか確認した。──が、特に変わった様子はなかった。
「……はい」
「さあ──始めようか」
カラカラカラカラカラカラ……カコン!
「まずはあたしが…………ッ!」
ミネルバは空の湯飲みにサイコロを二つ入れ、数秒間揺らした後、テーブルの上にカコン! と置いた。そしてゆっくりと開けて出た目を数えた。
「──赤が六、黒も六。……はっ」
「いきなり……」
「ほら、あんたの番だ」
ミネルバが湯飲みにサイコロを入れると、私に手渡した。それを受け取った私が「よし!」と意気込み、同じように揺らした後、カコン! とテーブルの上に湯飲みを被せた。そしてゆっくりとテーブルから離した。
「ッ! ……まずい」
私が出した目は、赤が四、黒が六だった。ミネルバはその結果を見ると、もはや結果を知っているかの様に、ササっと湯飲みにサイコロを入れ、二投目を振った。──出た目は赤が四、黒が五だった。つまり、私の二投目の合計が十一以下だったその瞬間、私の負けとなる。
「……お願いっ!」
自分を信じ、賽を振った。
カラカラカラカラ……カコン!
そっと、湯飲みを開け、中を見る。すると──
「ッ! ほ、ほお……なかなかやるじゃん、あんた」
テーブルの上に出たその目は赤が六、黒が五。
つまり、この時点では同点。ということは……
「よし! 三投目だ」
ミネルバが再びサイコロを湯飲みの中に入れ、力強くテーブルの上に被せた。そして慎重に取っていく。そして出た目を私に見せびらかす。
「……赤が五、黒が六……」
「さあて、面白くなってきた! ほら、あんたの番だ。さっさと振りな」
「……このままじゃまずい……でも、スキルは使えないし……何か方法は……あ!」
私はポケットから念のため入れていたバナナの皮を取り出すと、ミネルバに気づかれない様に『一』の面に皮の粘液を付け、「おりゃ!」の掛け声で、サイコロを振った。すると──
「なっ!? 赤六、黒……六だと……!?」
「この勝負、私の勝ちね!」
「イカサマだ! あんた、スキルを使ったな!」
「いいえ。スキルは使ってないわ。──スキルは」
「く…………ちっ! 持っていけ! さっさとあたしの前から失せな! あと」
「あと?」
「マリンには気を付けろ」
「えっ?」
ボオオオオオオオオオオオオ!!
ミネルバの身体が一瞬で燃え、その灰が開いていた窓に吸い込まれる様に散っていった。どうやら今この場に居た彼女は分身体だったらしい。本人は既に、かの王の国へと旅立った後だった。彼女が消えると、後ろで住民を押さえていたマリンが駆け付けた。
「シーちゃん、どうだった?」
「……うん。鱗は貰った。勝負に勝って」
「ミネルバは……やっぱり、分身だったか」
「うん。多分オリジナルは──」
私は紅い鱗を見つめ、夜空にかざした。彼女とはまたどこかで会うはず。今度は遊びじゃなく、本気の勝負で。
紅く光るその鱗はどこか悲しい表情をしている様に、私には見えた気がした。
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