新第16話 深まる謎
「だめだ……いない。──ッ! シーちゃん、こっちに!」
「わかった!」
燃え広がる街並みを背に、私とモグはこの国にいるはずのミネルバが、元凶──マロー王と手を組んでいるのではないかと疑い始めた。急いで私達は燃える土地の中で唯一火の気がなかった王宮の側までやって来たのだった。
「私が先に行って合図を送るから、続いて」
「うん」
宣言通り、モグが身を隠すスキルで自身と私に掛け、モグがすばやく中へ入った。少しして、手をおいでおいでと、手招きする。合図だ。
「……よし」
私も中へ入り込み、モグの後に続く。幸い、警備にあたる人達はこの災害故に一か所だけ、手薄な入口があったため、スムーズに潜入する事が出来た。王宮内は至って変わった様子はなく、アーさ王のそれと内装は一緒だった。色は赤を基調とした感じだったが、そとの炎と重なり、まるで潜入してくださいとでも言っている様でもあった。
「ねえ……ミネルバ様は何でこんなことを?」
「……恐らく、あいつと手を組んだミーネ……ミネルバは、奴の指示でこの辺りを燃やして、その力を誇示したかったんだと思う。なにせ、この国の王であり、神様だからね」
「なるほど……でも、おかしい点があるよ?」
私がそう言うと、モグは先へ行くのを一旦ストップし、隠れられそうな柱の陰に移動。自分の側に私を呼ぶ。
「おかしい? ……どういうことだい?」
「だって、この国の住人が少なすぎている気が──」
「! 待った。なら、消えた住人は一体どこへ──」
モグがその先にある答えを言おうとした瞬間、隠れていた柱が突如グニャッと変形した。
「うわっ!?」
「なにっ!?」
カチャッ!
そのまま二人が後ろに転がると、すぐさま二人の頭に黒い銃口が向けられた。当然、何も出来ず、両手を上げ、愛想笑いで場を濁した。
◇
キ~……──ガシャン!
「待って! そのままここで少しお話……あー! ちょっと~!」
「諦めな。シーちゃん」
「だって~……」
「しかし、困ったな……」
「ううう……これからどうするのよ~! 私は剣を取られちゃったし、モグはスキル止められているし~!」
先ほどふいをつかれ、銃口を向けられた私とモグは、四人の男達に捕らえられ、すぐさま手錠(モグにはスキルを使えなくする特殊なもの)を施された後、王宮の地下にあった奴隷用の檻に入れられた。当然、聖剣も奪われモグはその長く出来る手足を動かすくらいしかできず、正に万事休すと言ったところである。
「ッ! そうだシーちゃん、スキルを使ってみたら?」
「ッ! そっか! 私は使えるんだった!」
私はすぐにまず、モグに付けられた手錠に向かって両手を差し出し、「んん~」と唸りながら、唱えた。
「……【パーフェクト・スキル】!」
ピピピンピンパポン!
久しぶりに聞いたコミカルな音と共に出現したのは、いつものバナナの皮──ではなく、黄色い紡錘形の爆弾……もとい、レモンだった。
「え!? こんな時に限って新しいのでちゃう~!?」
私は驚きのあまり「こんなものいらぬ!」と手錠で不自由な手を何とか動かし、檻の外に出そうとした瞬間、私男腕をモグが掴んだ。
「待った! シーちゃん、もう一度何かを生成してみてくれる? それ次第で、これでこの手錠を外せるかもしれない」
「わ、わかった!」
再び私は先ほどと同じ様なイメージで、今度は床に向かってスキルを唱えた。──すると現れたのは、頑丈そうな硬い鋏だった。とりあえず、モグの手錠が最悪取れなくても、私の手錠は切断できそうな物が出てきてホッとする。するとモグがいきなり、レモンをその鋏で二つに裁断した。
「!? モ、モグ!? 何してるの!?」
「まあ見ていたら分かると思うよ」
モグは切ったレモンの半分を自身に施された手錠にそのレモンを擦りつける。
「…………」
「モ、モグ………………って、あれ? 心なしかモグの手錠が緩く──」
チャラン
「ッ! と、取れた!? な、何で!?」
「ふふ~ん。それに含まれている成分にはこういう手錠何かを溶かす作用があるのだよ」
「ほへぇ~……初めて知った」
「まあ、時間はかかるけどね。……っと、もう一個のも捕れた!」
モグが自由になった両手首をクルクル回すと、私についている手錠をちゃんとしたスキルで簡単に外す。私も両腕をブラブラして怪我がないか確かめる。……と、ここでふと、気が付く。
「……ねえモグ」
「ん? 何だい?」
「何でこれがレモンだとわかったの?」
「ッ! ……さ、さあて、何の事かな~……?」
「……まあ、いいわ。訳は後にする。とにかく急ぎましょう!」
「そうだね」
モグが再び気配を消すスキルを私に掛けると、檻から顔を覗かせ、私を誘導した。この世界に来て、バナナを知らない……というより、バナナの様な物はあっても、全く別物であった私のあの皮や、このレモンに関して、知識を持っているはずがない人たちであるのにも関わらず、何故モグはレモンをレモンだと、分かったのか。どちらにせよ、まだ隠していることが彼女にはありそうだ。私はそんな感情を抱きながらも、この場の誰よりも頼れる彼女を信じると決めた以上、平和が訪れるまでは、彼女の秘密を守ろうと、心に決めたのだった。
「ッ! ここだ。覚悟はいいかい? シーちゃん」
「……望むところ!」
私達はこの国の秘密を知るため、地下から地上へ戻る扉を開けた。
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