新第13話 私の試練

「お母さん!? セレンが? 嘘でしょう?」


 衝撃の告白をしたセレンに聞き返す私。それをセレンは軽くあしらう。


 「この場で嘘をつくメリットはないと思われますが……わかりました。証拠を見せます」


 そう言うとセレンは皆を外に出る様、促す。そして湖をバックに本当の姿を現した。



 グッ……バッ!


 

 「……これが本来の私の姿。あの娘と同じ、緑竜族が一人──『セレーネ・グィネヴィア』」


 「グィネヴィア……って、倒した彼女じゃ──」


 「彼女もまた、グィネヴィアと名乗っていましたが、あれは私に宿る竜族の力を奪ったもう一人の私……と言ったところでしょう。彼女が消えた今、その力は私に戻ってきました」


 「同じグィネヴィアだからアーサ王も気が付かなかった……」


 「それだけじゃない」


 モグが私に話かける。どうやらモグはセレンの正体に気づいていたみたいだ。


 「セレンから奪った力がある以上、ミーヤ嬢は常に狙われていたと言っても過言じゃない。セレンがミーヤ嬢に固執していたのは、自分の娘だったからさ。ただ、それに気づいたのはあのパーティーの前だけどね。彼女の姿も作った時と全然違ったから、気づくのが遅かった。ヴィアを送り込んだのが功を制したって訳さ」


 再び人の姿に戻ったセレンが皆の前で頭を下げた。


 「本当に申し訳ございません。そして、今一度お願い申し上げます。どうか……どうか、ミーヤを、私の愛する娘を──救ってくれませんか?」


 「セレン!」


 「…………」


 私は彼女の前まで近づき、右手を差し伸べた。


 「私はまだ、ミーヤちゃんの護衛の任を降りていませんよ? だから絶対! ミーヤちゃんを助けて、今度は貴女の言葉で、本当の事をあの娘に教えてあげて」


 「…………はい! 承りました!」


 

         ◇


 

 時は少し遡り、パーティーで私が殺されかけた後、ヴィアの後輩──『イゾルデ』はミーヤちゃんをとある場所へ連れ去っていた。


 「……ここまで来れば追ってこないかな~? よいしょ」


 イゾルデがミーヤをその辺に下ろし、後ろで手を組み、少女の顔を覗き込んだ。


 「……可愛い顔しているな~。斬りたくなっちゃいそう」


 そんな物騒な感想を漏らし、先輩であるヴィアがなりすましている男──『ランスロット』を待つ。──が、一向に彼は姿を現さない。何かあったのかと、もう少し待ってみたものの、彼はやって来なかった。


 「ん~? 先輩、どこ、行った~?」


 探しに行きたいが、マロー王の命で攫った少女をこのまま放っておく訳にもいかず、一度下ろした少女を背負い、最終目的地である黒龍族の国へ向かった。


 


 


 一方、シエテ達はヴィアがそのランスロットに成りすましていた際に伝えられた、最終目的地に向かう為、話し合っていた。というのも、


 「向こうに行くことは簡単だ。また私が連れていこう。でも、今のままじゃ、間違いなく敵にやられて皆死ぬ」


 「ですよねー……」


 私は腰にある聖剣という鈍器にしか過ぎない武器をため息交じりで見る。そもそも、少し前までただの女子高生であった私に、この世界に来てからというもの、戦いの連続だった。好奇心旺盛な私でなかったら、こんな事にはならなかったかもしれない。けれど、それは同時にモグやセレン、ミランさん、アーサ王、ヴィア、そしてミーヤちゃんと出会わなかった可能性だってあった訳だ。そして神様から貰ったこの【パーフェクト・スキル】があったからこそ、何とかなっていた事も確かである。だからこそ、


 「モグ! スキルを教えて!」


 「ッ! もちろん! ただ、それにはここじゃ、やりづらい。そこでだ、ヴィア!」


 モグがナイフを片付けていたヴィアに声を掛ける。気づいたヴィアが師の元に駆け付ける。


 「お呼びですか、師匠」


 「用がなきゃ呼ばん。お前はセレンの竜の力を最大限引き出せる様にしてやれ」


 「分かりました! 師匠達は?」


 「あそこへ向かう。ここでは無理だから」


 「あ~! あそこですね! 分かりました。行ってらっしゃいませ。帰宅される際には今度こそ一声下さいよ?」


 「わかっておる。行こう、シーちゃん」


 「どこ──」



 トントン!



 モグがスッとスカートの中から出した黒い足を二回、地面を叩くと、湖に来た時の様にまた違う景色が現れた。


 「──に、ええッ!?」


 至る処に大小様々な噴水が点在し、一瞬で来た私とモグに誰も見向きもせず、身体の一部(足だったり腕だったり)が宝石のサファイアの様に美しい人々が歩いていた。ようやく我に返った私が側にいるモグに「ここ、どこ~?」と口パクで伝える。私の反応を面白がって小さく笑っていたモグが片眼を閉じ、ウインクした状態で答える。


 「ここは《水龍族の国──【ネプチューン】──》」


 「ネプチューン……」



         ◇


「──【パーフェクト・スキル】!!」


 

ボンッ!



圧縮された空気の弾が私の手から発射されると、目の前にあるドハドバ水が落ちる滝に当たる。一瞬、滝から流れる水が止まる。が、また同じ様に下に流れ始める。


「うーん……。普通だ」


「うん。確かに普通だ」


「ねぇモグ、何とかならない?」


「言ったでしょ? 『感情に呼応してスキルは強くなる』って。今シーちゃんは何を思ったの?」


「……特に考えてなかった」


「はぁ……。それじゃあいつまで経っても強くならないよ?」


「わかっている。……でも」


「でも?」


「……戦うぞ! ……ってならないと、感情が高まるって感覚がどうも、思い付かなくて」


「なるほど。それもそうか……」


「あの時はネヴィアを倒さなきゃ! って気持ちがあったからたぶん出せたんだと思う。けど今はこっちに襲いかかってくる感覚は当然ないし、修行と言っても結局やっていることはここに着いてから変わってないから──」


「修行内容についてはこっちも悪いとは思っているんだけど、シーちゃんが使えるのはその【パーフェクト】だけだからこっちも色々考えた結果がこれなんだよ。許してね」


「ううん。モグは悪くないよ。でも困ったな~。うーん……」


ここ《ネプチューン》に来てから私の【パーフェクト・スキル】をひたすら強化する修行を行っているものの、今一つ成果はなかった。成果と言えば、バナナの皮が出る率は十回中、7回。あとの二つはさっき放った空気砲等の攻撃スキル。最後の一つはその一つの中でもこれまたランダムで、以前使って見せた『透過』や私自身の身体強化、初めて出した約一分間、空を飛べるなどの私の身に何かが起こるスキルだった。無論、さっきから滝に向かって何かを放っていたのは、攻撃スキルを強化するものだが、確率の壁が越える事はなく、そこら中には


黄色いやつが忌々しく散らばっていた。修行中、何回か転ける羽目になった。そして今、また一つ、悪魔の皮が生まれ、私はそこら辺にそっと置いた。その様子を見ていたモグが「あっ!」と呟き、私に話しかける。


「そうだシーちゃん、聖剣って今ある?」


「剣? あるけど……ほい」


私が目の届く範囲の地面に置いていたアーサ王から譲り受けた剣を拾うと、それをモグに見せる。


「それ、一回も使った事無かったよね? どう、使ってみる?」


「え……でも何か斬る様なものここには──」


「あるじゃん! 後ろにデッカイのが」


モグが私の背後にある大きな滝に向かって指を指した。


「マジ……?」


 

         ◇


 

──「……えいっ!」


ズバッ!


ザーーーー


「……モグさんや、知っていてやらせました?」


「あら? バレましたか。まあ、物は試しってやつで言ってみただけだったけど、シーちゃんがやる気だったから、足場まで作ってちょっと斬らせてみた」


「よろしい。では祈りを捧げ、私に斬られなさい。チェスト~!」


私がモグを手刀で頭をストンと落として、斬る真似をした。当然斬れる訳はない。私をおちょくった罰を与えたのだ。えっへん。


「ごめん、ごめん。でも、剣を使ってみるってのは本当で、何か役に立たないかな~と」


「うーん。私もそれはわかっていたんだけど、ほら──」


「ん?」


私が両手を肩幅まで広げ、テレビでよくある健康番組のダイエット企画などで見たことがあるあの感じの立ち姿でその場をゆっくりと一周する。モグはわかって無いみたいだ。仕方ない。


「──えーと、その……私って、スキルはあれど、普通の女の子なのだよ! だからその……」


「あ~!」


「わかってくれた!」


「実はシーちゃん、!?」


ガクッ


「……それの反対……って事を言いたかったんだけどなぁ……」


「なんかごめんよ?」


「……とまぁ、私も普通の人と大差ないから、剣士なんてなれないし、剣もこれが初めて貰ったし」


「そっか、ん~。ますます困ったな~。対抗手段がほとんどない」


「せめて、剣士さんが居れば……」


「剣士ねぇ……剣士……剣……あっ!」


「ん? 何か心当たりでも?」


「あるんだけど、あいつ、言うこと聞かないしなぁ……あ、えーと、少しの間、町をみておいで。一時間後、もう一度ここに集合で!」


「あ、うん。わかった」


「それじゃあ!」


そう言うと、急いでモグは滝に来た時とは違うルート(宿がある町とは逆方向)に向かって走って行った。


「いっちゃった……」


私はモグに手を振りながら、その彼女の後ろ姿を見送った。


 


 


──「シーちゃんのためにもここは一つ、人肌脱ぎますか~!」


 モグは林の中をズンズンと進み、人工的に作られた石の祠の前までやって来た。


 「どうかいますように……」


 祠の石を決まった順に水を少し掛けていく。そして最後の石に掛け終わると、そこから少し離れて待つ。すると、


 


 ゴゴゴゴゴゴゴ──


 


 「ふあぁ~あ~……。よく寝た」


 祠から姿を現したのはこの街で崇められている水竜族の竜神──《ネプチューン》本人だった。


 「やあネプチューン。五百年ぶりかな?」


 「ん……? ッ! おおー! マリンじゃないか! 久しいな~」


 「今用事でここへ来ていてね。親友に稽古を付けているところだ」


 「へぇ~。君に親友ねぇ~……。本当に?」


 「うぐっ。わ、私も親友くらいつくったさ!」


 「ふ~ん。まあいいけど。それより、何の様だい?」


 「ネプチューンに私のその親友の稽古を付けて欲しいんだ」


 「……いやだ」


 「やっぱ、そうなるよね~」


 ネプチューンが腕を組み、モグに聞く。


 「大体、稽古を付けて欲しいのなら、そのお友達とやらと一緒に来るべきだし、君が認めた友だとしても、こっちは初対面だ。性格やその子の力がどこまで弱いのかとかも知らない」


 「……ごもっともです」


 「とは言え、他でもない君のお友達のためだ。手伝ってやらなくもない」


 「ッ! 本当か!」


 「ただし! その子をこの眼で見てから判断させてもらう」


 「わかった」


 「……それで? そのお友達とやらは今、どこにいるんだい?」


 「近くの露店を見ているはずさ」


 「なら、この姿は人目に付くか……よっと!」


 ネプチューンがその場で蜷局を巻き、高速回転する。そして土煙を吹き飛ばし、モグと同じ位の年齢層の男の姿になって再び現れた。


 「こんなのでいいだろ?」


 「多分大丈夫。まだ一時間経ってないから集合する予定の場所に行くより、お店を見て回った方が早いかな?」


 「ならそれで構わない。俺はマリンについて行くだけだしな」


 二人は林を抜け、シエテの居場所に向かった。


 

          ◇



 一方、モグと別れたシエテは町に向かい、お店を見て回ったが、修行の事が頭から離れず、たった十分程見に行くと、集合場所に戻っていた。


 「はあ……。落ち着かないな~……」


 腰の剣を膝に乗せ、鞘からゆっくりと取り出す。以前と変わらない輝きを放ち、その美しさに酔いしれる。……が、ふと、我に返り、己の未熟さに貯め機器を吐いた。


 「……本当に私がこれを貰ってよかったのかな……」


 


 ──……ッシュ


 


 鞘に戻し、傍らに置く。そして眼を閉じると、この世界にやって来た頃の記憶を思い出す。


 「……はじめは散々だったなあ……──」


 


 事故で死んで、神さまと出会い、この世界に私はやって来た。何もない私に神様からスキルを授かって、初めて使ったら日本で毎朝散々食ったバナナ。しかも皮だけだし。赤い帽子のおじさんがこけた時の痛さがまさか異世界で知る羽目になるなんて思わなかった。けど、このスキルのおかげでミーヤちゃんやモグに会えたのはとてもうれしかった。一人ぼっちじゃないってわかってとても安心した。今も、モグとここへ来て修行という形ではあっても色んな物や町を見て回って気づいた。皆、私の知っている日本と何ら変わりない、毎日を必死に生きているってこと。そして今の私に出来る事を精一杯、しよう! 元の世界には戻れなくても、神様が言った私の願いを叶えるために…………。


 

 「無謀だけどやってみますか!」


 私は滝に向かうと、剣を取り出し、滝に向かっていつもの呪文を唱えた。


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