新第12話 弟子は嫁で天才な美少女
「貴方、あの時私を撃った──」
スッ
「非礼をお詫び申し上げます。我が師匠の大事なご友人様」
「それで謝っているつも──」
「……あの時はああするしかなかったのです。もしあの場面で私が撃つのを躊躇い、味方としてあのお嬢さんを捕らえなければ、俺が奴等の仲間ではなく、皆さまの仲間の証明となり得ました。そこで俺は師匠に目線で意図を伝え、貴女を撃ちました。改めて謝罪申し上げます」
「……えーっと……。全く話がついて行かないんですけど」
私がモグに助けを求めると、私に頭を下げている男に一発、ビンタを食らわす。一瞬、何が起こったのかわからなくて頭が混乱した私は、ただ茫然とその光景を見ているしかなかった。
「……全く。世話のかかる弟子だよ、ヴィア。この一発は彼女のだ」
「モグ、この人は?」
「こいつが言っていた【ヴィヴィアン】。私の弟子であり、嫁であり、敵のスパイ」
「ネヴィアの仲間!?」
「そう。ネヴィアが作られた三人って言った内の一人……の真似をした、味方さ」
「真似? 何で真似する必要が?」
「それは──」
モグが話そうとした瞬間、会話に割って入り、ヴィアと呼ばれた男が勝手に喋る。
「はいはーい! 俺が話しますよー! というか、これを見てもらった方が早いかも」
そういうと私達から少し離れ、どこからか取り出したマントを身に纏い、それを翻した。
ファサッ!
当然、マントで男の姿が見えなくなる。が、マントが戻るとそこに男の姿はなくなっていた。というか、
「じゃ~ん! 正体は女の子でした~! てへっ☆」
「あらまあ~……」
「ハアハア……」
私を撃ったのは男でなく、可憐な美少女だった。…………ハアハアしている隣の変態メイドをそろそろ止めないと、大変な事になりそうだったので、インパクトが欠けてしまった事は言わないで置いた。
◇
「あの男の行方は?」
「行方も何も、私とヴィアで始末した。偶然にも殺された事実は残りの二人には知られていない。そこで私は敵の情報を得る為にスパイとして男の格好をさせて送り込んだ。……結果、今日まで気づかれずに済んではいたものの、シーちゃんがあの場面で撃たれた時は流石に焦ったよ。ここで正体をばらしてミーヤ嬢を助けられる確率はとても低かった」
「え? でもばらしたらあの二人だけになって、こっちの方が有利なんじゃ──」
「君も見たでしょ? ネヴィアのナイフから出て来た黒い影」
「じゃあまだ他にも敵が……」
「そういう事さ。だからあそこで迂闊に正体をばらしては、敵の思う壺だった可能性が高い。だからこそ、君を撃ったヴィアの行動は正しかった。──けど、ちょっとやり過ぎたとも思った。どうなんだい、被告」
「ッ!」
言われた被告人が押し黙る。しょんぼりとした顔を見た私が今の説明を聞いて、怒れる雰囲気ではないのは私も分かった。そこで代わりに、
「撃たれ役が私で良かった。モグやミーヤちゃんだったら、それこそ許さなかったから」
そう言って私はヴィアの頭をわしゃわしゃと撫でた。これは本心だ。私はたまたま運が良くて、神様が見てくれていたから今、ここに居る。この感じ……昔にもあった様な……。そう言えば神様が私の願い事を思い出せって言っていたけど、この気持ちと何か関係あるのかな……? でも今は、
「ねえモグ、前にも言った気がするけど、その……わ、私にもスキルを教えてくれないかな?」
「ッ! わかった」
モグが私の前で頭を少し下げると、両手を胸の前で組み、恭しく私に言った。
「──この場を以て誓おう。我が親友にして最高の王よ。其の聖なる剣が再び眠る、その鬨まで」
ゴクリ……。
モグの真剣なその眼差しに気圧されつつも、うんと頷き、左手を差し出した。モグがその手を両手で優しく持つと、そのまま甲に口付けする。
「ッ!」
モグが女の子であるのは周知の事実なのだが、この時ばかりは凄くカッコ良くてとても優しい白馬の王子様感が私の頭を過ぎった。すると突然、頭に映像が流れて来る。
「何……これ……」
──……幼い女の子が蜘蛛のキャラクターのぬいぐるみを大事そうに抱きしめ、部屋で遊んでいる様子。どこか懐かしく、それでいてさみしい様な感情が私の全身を取り囲む。女の子がこっちを向きそうになった時、顔に靄が掛かり、次第に私の意識が回復する……──。
「ッ! 今のは……一体……」
「シーちゃん?」
「ああ! ごめん! ボーっとしてた」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「そう。良かった。ヴィアの家がこの近くにあるから移動するよ」
「うん」
モグがセレンとヴィアの間に入り、例のナイフの話に参加する。私はこの時、あの蜘蛛のぬいぐるみを持つ少女がまたチラついた。しかし、あの少女と前に居るモグの様子は違って見えた。でも確かに、どこかであの少女を──……。私はブンブンと頭を振り、皆が歩いて行く方向に走っていった。
◇
「ここで休憩してくれ」
「わかったわ」
ヴィアに案内されて入ったその家は、木造の別荘の様な佇まいで、家具も出来るだけ自然の物を使って作られていた。
「お茶入れるから、その辺に掛けていてくれ」
ヴィアに言われた私とモグは適当なテーブルの側にあったロッキングチェアに座った。セレンは「メイドの身として立っている方が落ち着くので」と、やんわり断り、私の右隣りに立った。数分後、こちらも木で出来たマグカップに森の香りがほのかに漂う美味しい匂いのお茶を持ったヴィアが現れ、皆に配った。
「ス~…………。はあ~…………。とても美味しいです!」
「全く。これだけは旨いのが気に食わん」
モグこと、ヴィアの師匠が少し頬を赤らめる。セレンも頷きながらお茶を啜った。……と、このままでは眠ってしましそうだったので、私が話を促す。
「──それで、ナイフの話は?」
「それなんだが、俺も鑑定スキルでも断片しか分からなかった。今からそれを伝えるね」
ヴィアがマグカップを一度テーブルに置き、セレンから預かったナイフに手をかざし、ブツブツとスキルを唱えた。すると、ナイフから黒い光が溢れる様に部屋中を照らすと、真ん中から小さな石の様な塊が現れる。
「これは『記憶の石』。他者の記憶を垣間見る事が出来る、俺のオリジナルスキル! そして俺がここから得た彼女の記憶は、マロー王と謁見している記憶だった……──
「──王よ、それは誠でございますか!」
「ふん。ではお前は一体どうやってこの世界を我がものとさせるつもりだ?」
「そ、それは……」
「ふん。あの剣は本来、湖に捨てた何者かが残していった遺物。誰がどのように扱うかは自由である。それをユーサの息子が隠し持って居ることは事実。お前を作ったあの忌まわしき術者が持って逃げなければこの吾輩が……ッ!!」
マロー王が手にしていたグラスを握り割った。それを目の当たりにしたネヴィアがすぐさま頭を下げる。そして玉座から立ち上がったマロー王がネヴィアの顎を持ち上げ、ニヤリと笑い、
「そうだ……奴には娘がいたはずだ。あの娘を贄として伝説の剣を作ればよい。……と言う訳だ。あの娘を持ってこい」
「は、はい!」……──。
「……このままじゃミーヤちゃんが!」
「焦る気持ちは分かるよ、シーちゃん。でも、向こうもこちらが来ることは予想しているはず」
「で、でも……ッ!」
ポン
セレンが私の肩に手を置いた。ネヴィアの記憶でミーヤちゃんが狙われていた理由をこの場の皆が聞いている。けれど、彼女が置いたその手からは僅かに震えが伝わって来た。
「セレン……?」
「は……は……」
「ん? どうかしたのかい?」
「セレンが震えていて……」
皆がセレンの以上に気づき、彼女に注目する。目が虚ろな彼女を私がその手を優しく包むと落ち着きを取り戻した彼女が口を開いた。そして知る事となった。ミーヤちゃんとセレンの秘密……。
──「あの娘は……ミーヤは私の娘なのです……ッ!!」
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