新第4話 支配する者。される者

「どうも、どうも~」



歓声が未だ残る噴水の広場で、私は皆に拍手を貰っていた。まさか『アレ』がこんな風に役に立つとは自分でも思わなかったが、ミーヤちゃんが捕まってしまった際、咄嗟にポケットに入っていた皮が見え、もしかすればと考えて投げてみた。結果、この世界の人はこの黄色果物を知らない様で、ボディーガードさん達に渡した際にも、危険物では無いことだけを伝え、捨てて欲しいとも言ったことで、私が爆弾の様な危ない物でミーヤちゃんを連れて回る変質者では無いことを伝えるためでもあった。そして今、彼等によって拘束されている男共にもバナナを知らないというメリットが、今回のミーヤちゃんを取り返す決定的な手となり得た訳だ。……グーパンチはたまたまだったけど……なんとかなって良かった……。



 私は心の中でそんなのんきな事を考えていると、事態を聞きつけたミーヤちゃんのお父さん──アーサ王が駆け付けた。


 「無事か! ミーヤ」


 「うん。またシエテ姉ちゃんが助けてくれたの!」


 「そうか。それは良かった。感謝する。シエテ殿」


 「いえいえ! 襲われたのはちょっとびっくりしましたけど、ミーヤちゃんを守れてよかったです」


 「これはまたしてもお礼をせねばなるまい。皆、シエテ殿に今一度盛大な拍手を!」



 「「「「わああああ!!」」」」



 街中の皆が私に大きな拍手を送ると、王は私とミーヤちゃんを連れて、屋敷に戻った。



         ◇



 「改めて礼を。ありがとう」


 「いえ、こちらこそ、ミーヤちゃんに怪我がなくてよかったです」


 私がアーサ王に頭を下げていると、ミーヤちゃんがお父さんの服を引っ張る。


 「ん、どうかしたか?」


 「シエテ姉ちゃんならドラゴン、やっつけてくれないかな?」


 「ドラゴン?」


 「ッ! ああ、そうですね。貴女には伝えねばならないのかもしれません。この国──いえ、この世界を支配している者達の事を……」


 「それで……支配している者達というのは……?」


 「ええ、そのままの意味です。今、この世界では最北の地で我々を支配する者がおるのです」


 王は立ち話も何なのでと、側のソファーに私を座らせ、今言ったこの世界のことを静かに話し始めた。


 「──古来、この世界ではドラゴン、またの名を竜族と自らを名乗る者達と我々、人が住んでおりました。当時は関係も良好で、竜族の方々のみでしか、取れない木の実や、鉱石。我々人の技術によって取れるそれらの物で物々交換等をして、平和に暮らしていました」


 「街で飛んでいたバイクみたいな物はその技術があったからなんですね」


 「ええ。それらの技術は素晴らしく、瞬く間に広がっていきました。しかし……」


 「しかし?」


 「……ある日、その技術を使った竜族が出て来たのです」


 「何か問題があるのですか?」


 「はい。その技術は『人のみが扱う事』という風に、各国の王が集まった会議で決定したはずなのです。何より、そうでなければならない理由がこの世界にはあったのです」


 「理由……ですか」


 「ええ。曰く、この世界を創造したとされる神様が、既に居た最古の竜族の民に言い伝えたそうです。──『この世界にいづれ、人という種族が生まれる。その者達の技術力は竜族の技術力を遥かに凌駕する存在である。しかし、彼等には竜族にある、空を自由に飛び回る大きな翼や、何者もなぎ倒す立派な尻尾を持たない』と。故に、竜族が人の技術を奪わないという事を竜族が決めたのです! ……それなのに……」


 「……使っちゃったんですね、誰かが」


 「……ええ。それからは悪夢の様な日々でした。その噂は人や竜族に広まり、元々統治していたとある竜族の長が、各国の王に伝えたのです。──この世界を支配した、と」


 「なるほど……」


 「もちろん、そんな簡単に支配されるか! と、デモを起こした人や、竜族も居ました。しかし、一度手にした我々の技術を彼等は我が物顔で行使し、たちまち、人は竜族に怯えて暮らす様になり、我が国も食料や物品を制限されている状態なのです」


 「ッ! それなら私なんかがこんなにも良い服や、お食事を貰うなんて、おこがましいです! 本当に申し訳ありません! 元の服に着替えてきますね。あと、この御服をお返しします」


 「いえ、お礼を申し上げるのはこちらなのです。ミーヤを救ってくれたことに比べたら、この国の住民も大いに喜びます。何故なら──」



 「──私ね、竜族と人の間に生まれたの!」


 二人の会話に割って入ったのは隣で聞いていたミーヤちゃんだった。


 「え……竜族と人の間……って、お母さん、レオナ夫人はどう見ても人なんじゃ……」


 「レオナは二人目の妻です。この娘の母親は別にいます」


 「ええッ!?」


 「私はこの娘を授かる前、この様な優雅な暮らしなど程遠い、薄汚れた街の人でした」


 「……ええと……?」


 「私がこの国の王に選ばれたのは何より、この国に住む人々から悪しき竜族を何度も返り討ちに出来たからなのです」


 「どういうことですか?」


 「ここからは私の話なのですが、その前に一つ見せたいものがあります。セレン、アレを」


 「かしこまりました」


 いつの間にか近くで待っていたセレンさんがアーサ王から言われたある物を持ってくる。ワインレッドの肌触りの良い布で包まれたそれをテーブルに静かに置いた。すると、王自らがそれをゆっくりと開いていく。そして中から現れたのは──



 「ッ!! こ、これって……」



 「──我が国の秘宝、聖剣──《永久須狩刃エクスカリバー》です」





 この時、私は初めて見るその聖剣に一目惚れした。


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