新第3話 バナナの皮はこうして使えば良かったんですね!

「着いた~!」


 「ここが《アルテミス》の中心街だよ!」


 私はミーヤちゃんとここ《アルテミス》と呼ばれている王国の中心街、〈キャラメルト〉に来ている。理由は勿論、観光することだが、同時にとある任務も遂行する為に、ここへやって来た。その任務とは──


 「──シエテ殿、少しよろしいですかな?」


 「何でしょうか?」


 「少々問題がありまして……」


 「問題?」


 「ええ。実はミーヤは今、とある連中から狙われているのです」


 「ええ!?」


 「しーっ!」


 「ああ、申し訳ございません」


 「ゴホン。それでですね、うちの娘を狙うその連中を見つけた時の様に、探して欲しいのです。見つけた際にはきっちりと報酬をお支払いしますし、退治すること自体は我々がお付けする護衛にやらせますので戦う事はありません。何より、ミーヤが連中に捕らえられてしまったり、何か良からぬことをされてはこちらとしても配慮しかねます。また、ミーヤにはこの事を告げていない故、出来るだけ自然にこの任務をお願いしたいのです」


 「なるほど……わかりました。上手くいくかはあまり自信が無いですが、出来る限り頑張ります!」


 「それでは、後を任せます」


 「はい」



         ◇



 ──……「お姉ちゃん?」



 「ッ! な、何?」


 「どうかしたの?」


 「う、ううんっ! 何でもないよ! それより、ちょっとごめん、お手洗いに行ってもいい?」


 「分かった!」


 「ありがとう」


 任務の事を何とかごまかし、私は近くの公衆トイレに向かった。ちなみに用を足すのではなく、あることをする為だ。それは、


 「よし! ここで例のスキルを発動させるぞ!」


 誰も居ないことを確認し、個室に入ると、あの名前を小声で言ってみる。


 「──【パーフェクト☆スキル】」



 ピローン パンッ! ──ポト。



 例の如く、コミカルな音と共に手から出て来たのは…………やはり、忌まわしき黄色い果物の皮であった。



 「むぅ……。もう一回! 【パーフェクト☆スキル】!」



 ピピンピ パンッ! ……ポト。



 「こんな時に限って~~~ッ! ええい、次々!」



 ピピン ポンパンッ! ポト。



 ──言わずもがな、その後、何十回とやっても、床には黄色いバナナの皮が積まれていくばかりであった。このままではミーヤちゃんが心配してしまう。そう考えた私は皮を一つだけポケットに入れて、トイレを後にした。



         ◇




 「ごめんね~。待たせちゃった」


 「遅いよ~。早く行こう!」


 「うん」


 その後、屋台や、お昼ご飯、アクセサリーショップなど、いろいろなお店を見つつ、隙を見てスキルをやってみたが、出て来るのはアレだけだった。その間、あまりまくったそれらはボデイーガードの方に捨ててもらいつつ、街を見て回った。一つだけ、バナナの皮じゃない、何かのオーラが私の身に変化をもたらした様だが、狙いである《透過》ではなかったため、結局のところそれが何なのかは私にもわかっていない。しいて言うなら、若干、手をグーにした際に力が溢れるような感覚を覚えたが、気にしても仕方がないので、そのままにしてある。前回同様、一日経てば効果が切れるっぽい。



 「お姉ちゃん、あの噴水で休憩しよう!」


 「うん、いいよ~」


 私とミーヤちゃんはこの国のシンボルとされる神様の銅像が中心に立っている石で出来た噴水の腰かけに座った。


 「ふ~。いっぱい見たね~!」


 「うん! お昼の『王ドーン(日本のかけうどん)』が美味しかった!」


 「あれは美味しかったね~! 帰ったらシェフさんに作れないか聞いてみよっか!」


 「うん!」


 ちなみにお昼代など、その他諸々のお金は私が日本で言うところの何円に当たるのかがいまいちわからないので、旦那様から頂いた金貨をテキトーに頂いている。……たぶん、いっぱい貰ったんだと思う。知らんけど。なので、お店ごとに一枚出してそのままお釣りをもらっている。銀貨や銅貨の数からみて、一万円前後だと思う。そして歩き疲れたのでここで休憩していると、後ろから悲鳴が聞こえた。



 「キャー!」


 「え、なに!?」


 「お姉ちゃん、あれ!」


 ミーヤちゃんが指刺した方向には、ナイフか何か鋭利な物を持って女性を脅している男が見えた。私はまず、ミーヤちゃんを守ろうと咄嗟に右手を彼女に伸ばした。──が、


 「お姉ちゃん!」


 「ミーヤちゃん!」


 たまたまボデイーガードさん達が居ない(隠れていた場所が遠すぎた)隙を狙って、別の男がミーヤちゃんを攫ってしまう。


 「ぐへへ。大人しくしろ! さもなくば、こいつを斬るぞ!」


 「くっ……」


 何か手はないのかと考えながら、刃物男から距離を開ける。すると咄嗟に、スキルを唱えた。



 「【パーフェクト☆スキル】!」




 以下略。ポト。



 「ああ? 何だ、その変な黄色い奴は」


 「(バナナを知らない? でも、今は何の役にも立たな──)あっ!!」


 私は今だした皮を、ミーヤちゃんを捕らえた男に。ポケットに入れていた皮を捕まった女性の方に投げた。そして、



 「先ほどからかかっていた【グーにすると力が湧いてくる】それと、初めてここへ来た時に出ていた【バナナの皮にダッシュする】スキルを駆使し、一瞬でまず、女性の方に走ると、思いっきり男を前に転がる様にぶん殴り、そのままの勢いで後ろの動揺する刃物男の元に投げた皮までダッシュする。そして先ほど同様、かつ、ミーヤちゃんを間違って殴らない様に気を付けながら男の顎を狙ってぶん殴った。



 「おりゃあああああ!」



 パーンッ!!



 しかし、忘れてはいけない。バナナの皮に向かって走る理由を。すなわち──



 スッテ―ンッ!



 「いったあああああああああああああああ~~~!」



 頭を強打した私だったが、何はともあれ、ミーヤちゃんを救う事が出来た私に、彼女が優しく声を掛けた。


 「……ありがとう、シエテ姉ちゃん」


 「……あ、うん……かっこよくないけどね」



 ワアアアアアアアアアアアアアアアアア~~~!!



 大きな歓声と共に私を称えてくれたのは紛れもない、この国の人々であった。


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