新第2話 何でも出るとは言ったが、何が出るかはやはりわからない

 「ミーヤちゃん、お姫様なの!?」



 「エッヘン!」



 得意げな表情で笑顔を見せるミーヤ。私はしばらくあっけに取られていると、夫人が心配して私の意識を取り戻させる。



 「シエテ様?」



 「はっ! すみません。ちょっとびっくりし過ぎちゃいました……ここまで手厚くお世話してくれたのはそういう事だったのですね」



 「そういう事です。あのまま放置しておれば、ミーヤは今頃……本当に感謝しかありません。今後は離れない様に見なければ……」



 「ごめんなさい。お母さん」



 うつむき、反省している様子のミーヤ。その様子に私が優しく声を掛ける。



 「また迷子になったら必ず私がミーヤちゃんを探すよ!」



 「お姉ちゃん!」



 その様子を間近で見ていたご夫妻は私にある提案をする。それは、



 「シエテ殿、もし貴女がよろしいのであれば、ミーヤを護衛してくれませんか? いくら我々共の護衛が居たとしても、あくまで男達が守りにあたる故、お手洗いなどの際はどうしても手薄になってしまうのです」



 「なるほど……あ、でも、私、何も出来ませんよ?」



 「むむ? シエテ殿には《スキル》があるのでは?」



 ──……やはりそう来たか……。



私はこのスキルをどう説明していいか迷っていると、ミーヤが私に告げる。



 「私、お姉ちゃんがいい! お姉ちゃんに守ってもらいたい!」



 「「ミーヤ……」」



 根負けした私が夫妻にその決意を伝える。



 「……わかりました。その任務、お受けします」



 「「ッ!」」



 夫妻は私の手を両手で包み、ありがとう、ありがとうと、頭を下げた。……その内床に顔を付けそうだった。




          ◇




 ──翌朝、そのまま客室で泊めてもらう事になった私が目を覚ますと、トントンとドアを叩く音が聞こえた。尋ねて来たのは変態……もとい、セレンさんだった。



 「おはようございます、シエテ様。朝食のご用意が整ったのでお向かいに上がりました」



 「おはようございます! ……洗面所ってどこにあります?」



 「こちらへ」



 セレンに案内され、二階の洗面所これまたにたどり着くと、セレンが一礼し、廊下に出た。……昨日の事を受け、外で待つみたいだ。



 ジャーッ! ──キュッ。



 「ぷはーっ」



 顔を洗い、近くに掛けられていたタオルで顔を拭く。そして「よしっ!」と気合を入れ、廊下に出た。



 「では改めてこちらへ」



 セレンに促され、昨夜、食事をした部屋に入る。私がドアを開けると、ミーヤちゃんが出迎えてくれた。



 「ッ! お姉ちゃん、おはよう!」



 「おはよう、ミーヤちゃん」



 相変わらず、元気な子だ。その笑顔が何よりの証拠である。ミーヤちゃんのとなりの席に着くと、ご夫妻が旦那様、ご婦人の順番で入って来た。



 「おはよう、ミーヤ。シエテ殿もおはようございます」



 「おはよう、ミーヤ。シエテ様もおはようございます」



 「おはようございます! 昨夜は泊めていただき、感謝します」



 「パパ、ママ、おはよう!」



 ミーヤちゃんが二人に言う。すると旦那様が私に聞く。



 「そういえばシエテ殿はここへは初めてだと妻から聞いたのだが、本当かね?」



 「(ここへと言うか、この世界そのものなんだけど……)はい、そうです」



 「では、しばらくここに住むと言い。ミーヤもそれを願うだろうし」



 「そうですわ。ご遠慮せず、ここが御実家だと思って!」



 ここまでくると、私も何も言い返せなくなり、御厚意に甘える事にする。



 「分かりました。良かったね、ミーヤちゃん」



 「うん!」



 朝の会話をしているとドアの向こうからいい匂いが入って来る。数分後、朝食がメイドと執事達の手によって運ばれてきた。



 「わ~! 美味しそう!」



 「では、いただくとするか」



 旦那様がそう言うと、両手を組み、祈りを捧げる。他の皆も眼を瞑り、祈りを捧げる。ここで、どうしようかと一瞬考えた私は、見様見真似で、祈りを捧げる事にした。日本の『いただきます』の感覚で。



 「……よし、では戴こう」



 眼を開け、目の前にある豪華な朝食に舌鼓した。






 ──「ふ~。食べた~」



 「どうでしたか? お口に合わなかったかね?」



 「いえいえ、とんでもない! とても美味しかったです」



 私も初めての異国の地で昨夜、食べさせてもらったディナーに感銘を受けつつ、この世界での食事を大いに楽しむことが出来た。朝食もイギリスなどでよくあるスタイル? らしき、トーストなどのセットだった。食後、何の豆かはわからないが、恐らく高級そうなコーヒーをフーフーしつつ飲む。ほのかな苦みと旨味、コクが絶妙なバランスで合わさり、私ののどを通る。



 「はぁ~……。美味しい~……」



 「お気に召されたようで何よりです。ところで、この後の予定なのですが──」



 そうだった! ミーヤちゃんを守る為にも、このスキルを使いこなさねばならない。そしてもう一つやることがある。それは──



 「──あ、あの! 私、その……この国は初めてなので、その……街を見に行ってもよろしいでしょうか?」



 「ッ! こちらとしたことが、申し訳ない。そうでしたな。ふむ。……では、観光ついでに、ミーヤとお遣いをしていただけますかな? 念のため、ボディ―ガードも数名連れていかせますのでご安心を」



 「分かりました。じゃあ、いこっか? ミーヤちゃん!」



 「うん!」



 ああ~。この満面な笑みが私の心を浄化していく……が、しかし、ここはお姉ちゃんとしてしっかりとミーヤちゃんを守らねば!



 私は決意を固く、「よしっ!」と両腕を上下に振るうのだった。

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