新第1話 始まりの街はクエストが優しいことで有名な件

「ここが……お家ですか……」


 「さ、どうぞ中へ」


 母親に案内され、私が入ったのはアメリカの大統領が住んでいそうな大きくて立派な家でした。ポカーンとした表情のまま、歩くと玄関に到着。出迎えたのは数十名のメイドさんと執事さんの群れだった。


 「「「「お帰りなさいませ」」」」


 目の前に広がる大きな階段の端にビシッと並び頭を下げている姿に、私は居たたまれなくなり、とりあえず一礼しておく。


 「ど、どうも……お邪魔します……」


 「セレン、お客様にご入浴とお召し物を」


 「はい。かしこまりました。お客様、こちらへ」


 「い、いえ! お風呂だなんて! それにお着替えまで。だ、大丈夫です!」


 「まあそうおっしゃらずに。お礼ですよ」


 「……は、はい。……本当にありがとうございます」


 「ではこちらへ」


 セレンと呼ばれたメイドさんが私を脱衣所に案内する。その間、何とも言えない空気が廊下を漂った。すると、彼女が歩く速度を緩め、話しかけて来た。


 「よっぽどレオナ様がお気に召したのですね。ここまでされるのは結構稀ですよ?」


 「ッ! そ、そうなんですか。何かちょっと照れますね……」


 「はっ! これは失礼を。まだ名乗っていませんでしたね。私はセレン。このお屋敷でメイドをさせていただいております」


 「わ、私こそ、すみません! えーと……(どうしよう……本名言ったら変な人って見られちゃうかも……ここは世界観に合わせて私の名前をもじったやつで……)──『シエテ』です。セレンさんで、いいですか?」


 「はい。何なりと。ところでシエテ様は何故屋敷へ?」


 「あーえ~と、娘さん……ミーヤちゃんが迷子になっていたのを助けてあげて……それと『スキルが使えるから』っていう理由なんですが……いまいち、私にはピンと来なくて……ああ! すみません。変な事言っちゃって……ッ!」


 私が自分の事を話した途端、セレンが立ち止まり、両手を口に添えて眼を見開く。どうやら母親──レオナと同じ反応をしているようだった。


 「……シエテ様は、ほ、本当にスキルが……ッ!?」


 「え、ええ。まあ一応」


 「──ぜ」


 「ぜ?」


 「ぜひ! 御入浴後、お話をお聞きさせて下さいますか!」


 「は、はい……わかりました……」




                             ◇




 カポーン……──。



 「ふぁぁぁあああ~~……。あったか~~い……」


 脱衣所ですっぽんぽんになった私は、ご用意されたこれまた大きな浴場で身体を癒していた。


 「スキルが役に立つとは思えないんだけどな~……確かに炎出たり、透過して見れるのは凄いって思ったけど、あんな大きな炎なんて絶対使う場面無さそうだし、あとバナナの皮だし……」


 などとブツブツ言いながら身体を清め、再び脱衣所に入ると、衝撃的なものを見てしまう。


 「ふふふ……可愛い女の子の下着……ふひっひ……はっ! あ、えーと、こ、これはその……何と言いますか、ぎ、儀式的なものでして、けしてやましい行為と言う訳では……」


 「…………」


 私は何も言わず、ありのままの姿で脱衣所を出ようとする。無論、セレンが止めに入る。


 「ま、待って下さい! その恰好ではまるで私が下着泥棒みたいな扱いになってしまうではありませんか! どうかここは替えの下着を準備しますのでこの場で少々お待ちになさってください!」


 「……ほかに言う事はありませんね?」


 私は天使の様な笑顔で悪魔の様な言葉を彼女に投げかけた。するとセレンが観念した様子でその場に正座した。


 「……他の人にもこんな事していたんですか?」


 「はい! そうです!」


 「……はあ。これ言ったら大問題になっちゃうしな~。わかりました。今回だけ許します。身体が冷えちゃうので替えの下着、お願いします」


 「は、はい!ただいま!」


 セレンが立ち上がり、着替えを取ってこようとした瞬間、私がちょっと遊んでみる。彼女で。


 「もう冷えちゃってるから、セレンさんのを着させてもらってもいいんだけどな~……チラッ」


 「わ、私の!?」


 セレンが少し考えると、やにわに自らの服に手を掛けた。流石にやり過ぎたと思い、急いで止めに入り、事なきを得た。




          ◇




 ──着替え後、変態メイドに案内されたのは、テレビで見たことがある長すぎて有り余る大きさの高級そうな石で出来たテーブルに、これまたお高そうな木の椅子がずらりと並ぶ部屋だった。何かの間違いではないかと思い、セレンさんに確認しに行くと、特にそう言った気配は無いとのことで、慣れないと言うよりも、傷を付けたら一生働かねばならない様な面持ちで、席に着く。少しして初めてお父さん──ここの旦那様と言うべき人がドアを開けてやって来た。


 「おお! 貴女がうちのミーヤを助けてくれた方かね!」


 「は、はい! そうです! す、すみません。何から何までしてもらっちゃって……」


 私は足をぶつけない様、細心の注意を払いながらその場で立つと、深々と頭を下げた。


 「頭を上げて下さい。貴女はそれ相応の事をしてくださったまで。どうか、お座り下さい」


 私はゆっくりと椅子に座ると、旦那様が入って来たドアからご婦人、その娘──件のミーヤちゃんが入る。


 「あ! お姉ちゃん!」


 「あら、もういらしていたのですね」


 二人供、街で見た時よりも綺麗なドレスで着飾り、ネックレスや指輪など(指輪はご婦人のみ)でゴージャスな感じの装いとなっていた。……と、ここである疑問が過る。それは──


 「……あ、あの~……私のこのお洋服もそうですが、あまりにも高そうな家具などがあるのは一体……?」


 「? レオナ、まさか何も言ってなかったのか?」


 「あ! すみません。私としたことが、シエテ様にお伝えするのを忘れていたわ!」


 「え~っと……つまり……?」


 私が聞き返すと、その答えをミーヤちゃん──ミーヤ姫が答えた。


 「パパはこの国の王様なのです!」


 「………………………………………………へ?」


 私が助けたのは紛れもないこの国のお姫様だったという事である。

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