番外編シリーズ。

番外編:大晦日


 今日は大晦日。

 一年の終わりの日である。

 ゆっくりする予定だったのに、なぜこうなった。


「千草、今日の夜ご飯は何鍋にする? 蟹? それとも蟹?」


 冬休みに入ってから、俺が一人暮らしをしてる事をいい事に彼女が入り浸っている。いや、いいんだけどね? それとね、その質問は蟹以外にないですよね? 蟹しか選択肢ないですよね?


「蟹が食べたくて仕方ないのね。蟹でいいよ」

「わーい!! その為にお母さんからお小遣い多めに貰ったんだよね」

「なんて迷惑な奴だ。お母さんも可哀想に……」


 と言いつつも、霞母とは一応連絡を取ってあり、お泊まりの了承は得ている。年末に寂しい思いをさせてしまうのは気が引けたが、霞母は逆に嬉しそうだった。



『付き合ったって聞いたときは驚きだったよ! 声しか聞いた事ないから正月はうちに顔を見せに遊びにでもいらっしゃい。あっ、ちゃんと避妊はするのよ! じゃあまた今度ね、会うの楽しみに待ってるから!』



 このような感じで、正月に会うことが確定して、安定の避妊しろよと言われた。まだそもそもしてないですからね。


「そうと決まったら、蟹買いにいこー」

「はいはい。じゃあ行きますか」


 ダウンを着て、霞と手を繋ぎスーパーへと向かった。


「外寒いね。だからさ、もっとくっついていい?」

「いいよ。俺も寒いし、くっついたらあったかいだろうし」


 その言葉を聞き、腕を組んでにひゃっと顔を緩める。

 何だかんだ偽装カップルをしていた時と変わらいままで、いつも通りで。だけど、それで良くて。日々、霞への好きという感情は高まっていくばかりで。

 こんな日がずっと続くと思うと自分も頬が緩まってしまう。


「何でニヤニヤしてるの?」

「聞きたい?」

「うん。気になる」

「霞と一緒に居れることが幸せだなって思ってさ」


 こんな事をいうのは柄でもないのだが、でも伝えたいとつい言ってしまう。

 言わなくてもわかる。そんなのは嘘で言わないと伝わらない。察してくれなんて傲慢にも程がある。

 どんな反応をするかと思って顔を見やると、顔が段々と赤くなり、マフラーに顔を埋めて嬉しそうに笑った。


「私も……私も幸せだよ。すごく幸せ。千草が好き」

「俺も霞が大好きだ」


 自分の気持ちを素直に言うとどうも気恥ずかしい。今、顔が赤くなっているのは、きっとくっついて歩いてるから体温が上がったのだろうと誤魔化すのは間違ってるだろうか? ……誤魔化すのは間違っているな。

 ただただ、霞が好きで、幸せで身体が火照っているのだ。誤魔化す必要なんてない。

 くっつきながら歩き続け、スーパーにたどり着いた。


「よぉーし! 蟹だ蟹だ!」


 カートとカゴを取り、元気に店内へと入っていく。繋がれた手は解かれ、そそくさと必要な食材をぽんぽんとカゴに入れていく。


「タラバガニとズワイガニの違いって何? 千草知ってる?」

「知らない。どっちも美味しいくらいしか」

「それ答えになってないよっ」


 ぷっと吹き出し、肩をカタカタと震わせた。


「笑わなくてもよくない?」

「ごめんごめん。どっちも美味しよね、とりあえず安い方にしとこっか」

「ですね」


 それから鍋に必要な、鍋スープの素、白菜、ネギなどその他を買い、店を出た。

 自分で蟹を買うなんて思ってもいなかった。来月は少し節約しよう。







****






 

 パカッと鍋の蓋を開ける。

 隣では感嘆の声をあげ、パチパチ拍手していた。


「わぁ! おいしそぉ〜! 蟹だよ蟹!」

「はい、蟹ですね」


 嬉しそうに言うなぁ。そんな霞も可愛い。


「では食べましょう」

「うんうん!」


 蟹の脚を2つずつとり、パキッと割り、プリッと剥き出される身。

 少しばかり下品ではあるが、パン競争みたく下から食べてみる。


「うまっ!!」

「おいひぃー!!」


 霞は頬っぺたを抑えながら、満面の笑みを見せ、足をパタパタと動かした。

 俺が貸した大きめのスウェットが相まって、それにプラスアルファで髪の毛をシュシュで前髪をくるんで動くたびに髪の毛が揺れて、もうなんかすごく可愛い。


「はい、千草! あーん」

「あーん。って自分で食べれますって」

「いいからぁ、あーん」


 口を開け、綺麗に剥かれた蟹を迎え入れる。


「どお? 美味しさ倍増?」

「うん。めちゃくちゃ倍増」


 それから鍋をつつきながら、迫りくる年越しを待つ。

 去年は1人だったので、こうやって過ごすのは久しぶりだった。楽しくて、1人に戻るのが怖くなるくらいに。


「ねぇ千草、私今日さ何色のパンツ穿いてると思う?」

「ブフッ!!」


 突然にぶっ込んでくるので、むせてしまった。


「ごめんごめん。大丈夫?」

「急に何言ってんの……まじで」

「いやぁ、何となく? 言ってみた」


 普通何となくで言わないからね。


「で、何色だと思う?」

「うーん。そうだなぁ、白?」

「ブッブー! ハズレでーす!」


 指を口の前に出して、バツを作り顔をずらして笑って伝えてきた。なにそれめっちゃ可愛い。


「じゃあ何色かな?」

「正解は———赤です! 勝負パンツでーす!」


 声高らかに何言ってるんだろうこの人。頭のネジ外れちゃったかな?

 逆にこれは意思表示なのでは? そういう気でいますよと。

 早くないですか? もっと時間をかけてもいいと思うんですが。


「あの時の言っていたTバックですか?」

「んなわけないじゃん! あれは冗談だよ! 持ってないよ! そんなえっちなのは」

「黒の紐パン持ってる時点で相当かと思うんだけど」

「何ですとー!? あれは買って後悔して履いてなかったけど、千草が黒がいいって言ったからどうせならと思って履いてきたのに!」

「誰もそこまで頼んでないんだけど……」


 むすっと頬を膨らませ、足をバタバタと再び動かす。……子供か! 拗ねるな!


「まあそういう事でした! ごちそうさま!」

「はい。お粗末様でした」


 食べ終わった食器を台所に持っていき、霞は洗い始めた。俺も食器を持っていき、洗ってくれたものを拭いて、食器棚に戻していくという形で少しばかりのお手伝いをする。

 夫婦ってこんな感じなんだろうなぁと、まだ付き合って間もないのに想像してしまう。


 こんな可愛いい人が奥さんだなんて結婚したら毎日定時で仕事帰ってきちゃうなぁ。

 とまだまだ先の事を考えてしまう。それでもこうしていると想像だけが膨らんで、早く時間が過ぎていかないかとおもってしまう。……俺、相当霞が好きみたいだ。





****





 食事も終わり気がつけば、時間はあと15分もすれば年を越す時間だ。

 リビングに移り、テレビをつけて年末にやるお笑い番組を観ながら爆笑したりしていた。

 隣同士で座り、机にお菓子を広げて2人でプチパーティー。

 飲み物はジュースではなく、コーヒーと場に合っていなく、マグカップが二つ並べて置いてある。


「あはははっ!」


 霞の笑い声が部屋に広がる。こんなにも笑う姿を見たことがなく、少しばかり嬉しい。

 ひとしきり笑い終わると、霞は立ち上がって俺の前に移動した。

 背を向け、何をするかと思って声を掛けた。


「……霞?」

「失礼しまーす」


 ぽすっと俺の上に座り、背中を預ける。


「私の私だけの特等席だぁ」


 そう言って座った彼女が可愛すぎて抱きしめた。


「何それ、じゃあこれも俺の特権だよね?」

「うん、そうだね」


 くすくすと笑い、「やっぱりこっちにしようかなぁ」と言い、再び立ち上がり正面を向いて座り抱きついてきた。


「なんか恥ずかしいね」

「確かに少しだけ恥ずかしい。こんな事した事なかったし」


 見つめ合い、時間だけが流れていく。すると、霞が口を開いた。


「これからはもっともっと千草を知りたい。好きだから。今年はもう終わっちゃうけど、来年はもっと仲良くしたい。ずっと一緒にいたい」


「俺も同じだよ。もっと霞のいろんな事を知りたいし、ずっと一緒にいたい」

「大好き、千草」

「俺も大好きだよ。霞」


 顔を近づけ、唇が触れる。

 久しぶりのキスだった。相変わらず柔らかい唇だ。

 そんな事をしていると、テレビからカウントダウンの声が聞こえてきた。



『10! 9! 8!』


 唇を離して、テレビをチラリとみる。


「霞、カウントダウン始まったよ」

 

『7! 6! 5!』


「もう一回!」


 両手で顔を掴まれ、霞にもう一度キスをされる。


『4! 3! 2!』


「ぷはっ!」


 離された唇。残りは1秒。

 

『1!』


「明けましておめでとう! 千草、今年もよろしくね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 年越しをしたのだが、それよりもキスが……。

 今度は俺がと、霞の顔に手を添えて顔を近づけ、口づけする。


「今年の初チュー頂きました」

「じゃあもう一回!」


 こうして新しい一年が始まったのだった。






あとがき


こんばんは。えぐちです。


何とか間に合いました!ギリギリ!

番外編です!


急いで書いたので、ちょっと変な所あるかも知れないですけど、読んでもらえればと。



では皆さん、良いお年を!

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