第2話:さては処女だな?
野木セン襲撃から事なきを終え、体勢を直し並ぶように俺達は座った。
「————それで、千草くん。君は何をしたのかな?」
首を傾げてあざとく質問してくる。わざとらしすぎる行動に俺はフッと鼻を鳴らし、その質問に答える。
「いや、なんもしてないですよ。廊下走ってたら注意されたけど無視してたら、野木センが走って追いかけてきただけです」
「廊下を走ってまで屋上まで来る理由は?」
「それは言う必要ありますか? あなたには関係ないと思います」
「十分にあるよ。私にえっちなことしたんだから。私には聞く権利があるし、噂流すよ? 良いの?」
……自分の噂は流れてもいいのか? 俺が先輩の立場であれば、絶対と言っていいほど嫌だと思うんだが。
それすらも気にしていない?
「ごめんなさい。話すのでそれだけはやめてください」
「それはそれで傷つくんだけど……まあ良しとしよう」
彼女はしゅんとしおらしくなったが、すぐ立ち直った。
それにしても話したくもない事をこんな人に話さなければなくなるとは。不運だ。今日の占い何位だったかな。
「では……まずですね、仲の良い女の子がいました。俺の好きな子でもあります。その子の友達から俺の事が好きだと聞きました。その友達というのは俺の友達でもあります。俺はさっきも言いましたけど彼女の事が好きで、両思いだから付き合えるなら付き合いたいと思いました。なので放課後教室でクラスの皆の注目が集まる中、俺は告白をしたんです」
「で、了承されると思っていたけど振られて教室を飛び出して、恥ずかしくてその場に居られなくて走って、どこか一人になれる場所を探して、屋上にたどり着いたと言う事だね?」
「あの……先に言わないでもらえます?」
彼女はまるでそれを見てきたかのように話す。だいたい合っていると言うか、全部正解なのがなんだかムカつく。
「まあいわゆる、嵌められたって感じかな」
空を見上げて、遠く、遠くにあるものに向けて呟いた。
「え? どう言う事ですか?」
今の話を聞いて、なぜ結論づけるのか見当もつかない。嵌められた? 誰に? そんなことをするメリットはなんだ?
「わからないの?」
————友達か。俺の事を好きってのは嘘か。
「あ、わかったみたいだね」
まだ何も話していないのに俺の顔を覗き込みそう言った。
基本的に表情には出さないようにしているつもりなんだけど。
先輩の目には今、俺の顔はどう映っていたのだろうか。
「そうですね。友達が嘘ついたって事ですね」
「正解! ピンポン! ピンポーン! ちなみにその子は少年と同性だね?」
まるで名探偵かのようにビシビシと当ててきやがる。
「はい……」
言いたいことはなんとなく分かっていて、その友達、
そんなのは憶測でしかないが、妙に説得力のある回答な気がした。あながち間違ってはなさそうだが……。それをここで決めつけるのは早計だ。
自分にとって邪魔者である俺は、彼の策略により排除されたって考えてもおかしくない。まさにいいカモだ。——でもそんな奴ではない。俺はそう信じている。
「それ友達?」
「友達ですよ。そいつが嘘をついたのかは本人にしか分からない事だし、本当に嘘をついてるかも分からない。俺の事を思って言ってくれたのかも知れない。だから勝手に嫌う理由にはならないし、憶測で人を嫌うのは俺のポリシーに反します。俺が嫌われる分にはいいですけど、多分嫌われることはないでしょうし。明日からも彼も俺も普通に接しますよ」
「少年は優しいのか、それとも自己陶酔してる気持ち悪いやつ?」
彼女の言ったことに少し顔をしかめた。気持ち悪いは言い過ぎだけど、確かに気持ち悪い。
でも、俺は間違った事は言っていないと思ったし、貴方にも言っているんだと暗に伝えてる事には気が付いていない。
「広く浅く。そんな付き合いの仕方しているといつか本当に困った時、少年を助けてくれる人はいないよ……」
段々と声が小さくなりながら、まるで経験してきたように彼女は言った。
「そいつは浅い関係じゃないし……」
「そうね。私が勝手に浅いか深いか決める事じゃないね。……じゃあそろそろ私は行こうかな」
そう言って彼女はスカートを払いながら立ち上がった。横に座っていた俺はそのまま立ち上がった彼女を眺める。
「あ、今パンツ見ようとしたでしょ!」
「いやしてねーよ……」
「明日は何色のパンツ履いてこよっかなぁ」
チラチラとこちらを見ながら彼女は言った。
「そうだなぁ黒がいいなぁ……」
「やっぱり少年はえっちだね!」
ニシシッと笑いながら彼女は歩き出し、はしごへと向かう。
「まあ男なんてこんなもんですよ。知らないんですか? 見れるものなら見る。あなたじゃなくてもいいんですよ」
「少年は変わってるね。大体の男は私に言い寄ってくるのに、君はそういう節もない。さっきみたいな状況になったらそのままキスとか胸とか触ってくるもんだよ。恋愛アニメとか恋愛小説のようにはいかない。……さては誘う勇気もない童貞さんだな?」
くるりと回って、首を傾けニマニマとしながらこちらを見てきた。
それに答えるように俺は、ほくそ笑みながら彼女を馬鹿にする。
「普通、振られたばっかでそんな行動しないでしょ。直ぐに気持ちが変わるもんじゃないし。それに言い寄ってくるのはみんなが噂を信じてるからだけであって、俺は振られたばっかだし、童貞だし、そんな勇気ないし、そもそも信じてない。それに童貞だしね。ビッチだから誰とでもヤると思って触ったりするんですよ。受け入れる方もどうかと思いますけどね。ビッチって呼ばれてるくせにそんな事も分からないんですか? さては処女だな?」
俺の言葉で彼女は立ち止まった。
後ろを振り返って俺に向かって指を差す。そしてこう言うのだ。
「少年。気に入った。名を名乗りなさいな」
「何キャラだ。俺は
「私は
それ自分で言っちゃうのかよ……。ってことは多分——
「また明日ここに来たら先輩に会えたりします?」
「少年。パンツ見たいだけでしょ」
「チッ、ばれたか」
「また会えるよ。今日ここで話してた事は二人だけの秘密ね」
「わかりました。では俺も一緒に帰ります。鍵閉められても困るんで」
ハシゴから降りずに、ジャンプして一気に降りた。ボンッと音を鳴らし綺麗に着地。彼女はゆっくりとハシゴを使って降りて来た。
「男の子だね」
「男の子ですから」
「じゃあ野木先生が来る前に出よっか」
「ですね」
ドアノブを掴み、左に回し重い扉を開ける。軋みながらゆっくり開く扉。
開けたドアの奥になぜか見える野木。
固まる俺。
固まる彼女。
仁王立ちする野木。
ゆっくり閉める扉。
「幻覚かな?」
「ですよね?」
互いに顔を合わせ、自分達に言い聞かせる。
ガチャンッ!! と勢いよく開いた扉。
「何しとんや!! お前らぁ!」
「………あ、偶然ですね。先生」
「千草、今から職員室な」
「あっ……はい……」
「あ、じゃあ私はこれで……さようなら先生っ」
「待て、綾瀬」
がっしりと野木センに肩を掴まれる先輩は、カクカクと人形のように振り向いてこちらに視線を向ける。
「え……」
助けてと言わんばかりに俺の顔を見て来るが、俺は抵抗はできない、諦めろという意味を込めて顔を横に振った。
「お前も職員室な」
がっくりと肩を落とした有名人だった。
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