失踪
「まじか……」
「思ったより早かったわね……」
到着、発券、入場、そこから5分ともたず、まなみは俺達の前から姿を消した。
「まぁ……あの子が本気になったら私達じゃ追いつけないわよね……」
「それはそうなんだけど」
最悪の場合はイルカショーのタイミングで合流、という話はしておいたのでそれは良かった。
館内は電波が繋がりづらく、頼みの携帯も役に立たずだ。
「どうするかな……」
「康貴は、私と2人じゃいや?」
「ん? そんなわけないだろ」
「そっか」
むしろ2人でもなんでも歓迎ではあるが、今回はちょっと覚悟と準備が足りていないだけだ。
「じゃあ、せっかくならイルカショーまでは……」
「そうだな」
どの道それしかない。せっかく入ったのだから楽しんだほうがいい。イルカショー会場でいつまでも待つ必要はないだろう。
「まなみは一人でも楽しめる子だから……」
「たしかに」
一人で小さい子に交じってはしゃぐまなみの姿は容易に想像できた。
「いこっか」
「ああ」
自然と、本当に違和感なく愛沙が手をこちらへ伸ばしてきた。
「……私達まではぐれたら、ね?」
斜めしたを見ながら、それでも手だけはこちらに伸ばしたまま愛沙が言う。
「そう……だな」
手を取って2人、館内をあるき始める。
薄暗い室内をまずはどこかで見たことがあるようなないようなといった熱帯魚たちのコーナーをゆっくり歩いていく。
すでにまなみを探すことは諦めていた。
「康貴、これ昔……」
「あー、懐かしい」
エンゼルフィッシュ。
親にねだって一度だけ飼っていた熱帯魚。覚えているのは水換えが大変だったことと、自分が産んだ卵をバクバク食ってた衝撃くらいだが、あの頃は愛沙もよくうちにきていたから玄関のこいつを可愛がっていた。
「また飼う……?」
「いやぁ、あれは世話が大変すぎる……」
「きれいなんだけどね」
「そうだな」
改めて考えると水族館のこの量を世話している手間、ものすごいだろうな……。
そのまま進んでいくとなぜか草木が生い茂る見るからにジャングル感のあるコーナーが現れる。
「康貴、こういうの、好きでしょ?」
バレている。いや男ならなんとなく、こういうのってテンション上がるもんじゃないんだろうか?
淡水コーナーにはでかい魚がうじゃうじゃ混泳していてそれだけでテンションがあがるというのに、探せば木の上にイグアナまでいるというのだからついつい探してしまう。
「まなみもこういうところにいそうね」
「なんかそのへんの木の上にいても違和感がなさそう」
「流石にそれはかわいそう」
いやでもイグアナを探しているまなみも、ジャングルに紛れるまなみも不思議とすんなりイメージできてしまうのが怖いところだった。
そんな他愛ない話をしながら、なんだかんだ2人でも話せるようになったことを確認しながら水族館を楽しんだ。
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